研究課題/領域番号 |
19K09863
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉川 直子 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任講師 (50400924)
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研究分担者 |
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
花澤 豊行 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90272327)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 頭頚部扁平上皮癌 / miR-99a-5p / miR-99a-3p |
研究実績の概要 |
ヒトゲノムプロジェクトの成果で、蛋白をコードしないものの転写されて機能するRNA分子(機能性RNA)が判明した。マイクロRNAは、機能性RNAの1種であり、19~23塩基程度の1本鎖RNA分子である。1種類のマイクロRNAが、極めて多くの蛋白コード遺伝子の発現を制御している事が特徴である。癌細胞において、発現が抑制されているマイクロRNA(癌抑制型マイクロRNA)、発現が亢進しているマイクロRNA(癌促進型マイクロRNA)の存在が明らかとなっており、マイクロRNAが制御する遺伝子群と共に、癌細胞の増殖、遊走、浸潤、転移、治療抵抗性に深く関与している事が明らかとなっている。 本研究では、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)・臨床検体から作成したマイクロRNA発現プロファイルに基づき、癌抑制型マイクロRNAを同定する事、マイクロRNAが制御する標的分子を探索する事、標的分子の中からHNSCCの臨床病理に関与する分子を選択する事、これら標的分子の発現や活性化を抑制する薬剤や低分子化合物を探索する事(ドラッグ・リポジション)を目的とした。 解析対象マイクロRNAとして、HNSCC組織で発現が低下している、miR-99a-5p(ガイド鎖)とmiR-99a-3p(パッセンジャー鎖)に着目した。The Cancer Genome Atlas(TCGA)データベース解析から、これらマイクロRNAはHNSCC臨床検体で有意に発現抑制されている事、これらマイクロRNAの低発現群患者は、5年生存率で有意に予後不良である事を確認した。次に、これらマイクロRNAの機能解析を行い、癌抑制機能(癌細胞の遊走能と浸潤能を顕著に抑制)を明らかにした。更に、miR-99a-3pが制御する癌促進型遺伝子の探索から、10種類の遺伝子の異常発現が、HNSCC患者の生命予後に影響を与えている事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのマイクロRNAの概念では、マイクロRNA前駆体から派生するガイド鎖のみが、RNA induced silencing complex (RISC)に取り込まれ、標的分子の制御を行い、パッセンジャー鎖は細胞質で分解され機能しないとされていた。最近の研究から、一部のパッセンジャー鎖は、RISCに取り込まれ、癌促進型・癌抑制型マイクロRNAとして機能している事が明らかになってきた。本研究において、miR-99a-5p(ガイド鎖)と、miR-99a-3p(パッセンジャー鎖)が共に、HNSCCにおいて、癌抑制型マイクロRNAとして機能している事が明らかにした。更に、miR-99a-3pが制御する癌促進型遺伝子の探索から、10種類の遺伝子(STAMBP、TIMP4、TMEM14C、CANX、SUV420H1、HSP90B1、PDIA3、MTHFD2、BCAT1、SLC22A15)の異常発現が、HNSCC患者の生命予後に影響を与えている事を明らかにした。 目的である癌抑制型マイクロRNAの同定と、マイクロRNAが制御する標的分子を探索する事、マイクロRNAが制御する標的分子の中からHNSCCの臨床病理に関与する分子を選択する事ができ、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
癌抑制型マイクロRNA、miR-99a-3pの標的分子の中から、HNSCCの分子病理に関与している10種類の遺伝子を見出した。これら遺伝子について、siRNAを用いて癌細胞中でノックダウンを行い、癌促進機能を明らかにする。癌促進機能を有する遺伝子については、遺伝子が関与する分子経路を明らかにし、遺伝子または遺伝子が関与する分子経路を遮断する戦略(ドラックリポジショニング)を考案する。 今回の解析から、これまで機能が無いとされていた、マイクロRNAのパッセンジャー鎖が、HNSCCにおいて、癌抑制機能を有している事が明らかになった。我々がRNAシークエンスにより臨床検体から作成した「HNSCC・マイクロRNA発現プロファイル」には、これまでに解析が成されていないマイクロRNAが多数含まれている。今回の解析同様に、TCGAデータベースを用いた臨床病理学的解析と、マイクロRNAを癌細胞に核酸導入する機能解析を継続し、HNSCCにおける新規癌抑制型マイクロRNAの同定と、マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索を行う。これら探索から、HNSCCの分子病理に関与し、ドラックリポジショニングが可能な分子が見つかると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予定よりも物品費が節約できた為、次年度使用額が生じた。 次年度は、機能解析・ゲノム編集を継続する為の費用に使用する予定である。
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