先天性高度難聴の半数以上は遺伝子が原因であり、難聴の遺伝子解析は確定診断のみならず分子病態解明のためにも重要である。研究代表者は、これまでの研究により顕性遺伝形式をとるauditory neuropathy spectrum disorder(以下、ANSD)の一家系を見出していた。ANSDは、内有毛細胞、シナプス、ラセン神経節細胞、蝸牛神経、蝸牛神経核までの異なる部位の障害で生じうる。障害部位により人工内耳の効果が限定されうるが、現存のOAE、ABR等の機能検査から障害部位を明らかにすることは困難である。 本研究では、今までの研究を発展させ、全国から収集された日本人難聴患者DNA バンクからANSDの家系を選定し遺伝子解析を行 うことで、ANSDの、(1)新規原因遺伝子の同定、(2)遺伝学的所見に基づく新分類の確立と病態解明と(3)人工内耳予後予測に関する臨床応用を目的とした研究を実施した。具体的には、全国から信州大学に収集された難聴患者サンプル(約10000検体)の中からANSDを呈する症例のピックアップを行うとともに、 DNAサンプルを抽出し次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析を行なった。その結果、当初見出していた顕性遺伝形式をとるANSD家系1家系より候補となる遺 伝子Xを同定 することができた。見出された遺伝子はCa2+結合タンパク質であった。遺伝子Xの蝸牛における局在を明らかにすることを目的にマウス内耳サンプルを用いた蛍 光免疫染色観察を行なったところ、有毛細胞に局在が認められた。
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