研究課題/領域番号 |
19K09873
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高橋 秀聡 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (50727196)
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研究分担者 |
佐野 大佑 横浜市立大学, 医学部, 講師 (10620990)
折舘 伸彦 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (90312355)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 頭頸部癌 / 唾液腺癌 / 神経新生 / 癌微小環境 / 分化転換 |
研究実績の概要 |
MD Anderson Cancer CenterのDr. Jeffrey Myersの研究室との共同研究を行い,がん抑制遺伝子p53の機能を喪失したがん細胞が周囲の感覚神経を交感神経に変化(再プログラム)させ、その交感神経ががんの進展を促すことを発見した。我々の研究グループはこの成果を、英科学誌Natureに発表した(2020年2月20日号、日本時間2020年2月13日午前3時付オンライン)。近年、がん組織中の交感神経ががんの進展に密接に関わることが分かってきたが、今回の研究でその詳細なメカニズムが解明された。MD Anderson Cancer Centerで治療された患者データを解析したところ、交感神経密度が高い頭頸部扁平上皮がん患者は、交感神経密度が低い患者に比べて生存期間が短いことも分かった。交感神経密度が高いがん組織ではノルアドレナリンの濃度が高かったのに対し、ノルアドレナリンの作用を阻害する交感神経受容体遮断薬を投与したマウスではがんの増殖が抑制された。このことから、交感神経の密度が患者の生存期間を予測する指標になるだけでなく、がん組織の交感神経やそこから放出されるノルアドレナリンを遮断する治療が有用である可能性が示唆された。 また,腺様嚢胞癌を含む様々な組織型の唾液腺癌から患者腫瘍組織移植モデルマウスやがんオルガノイドの作製に成功した(投稿準備中)。従来はin vivoで腺様嚢胞癌のがんモデルを構築することは非常に困難であったため,腺様嚢胞癌のがん微小環境に関する研究はほとんどなされていなかったが,今回の研究により腺様嚢胞癌のマウスモデルが作成可能となり,腺様嚢胞癌の微小環境における神経の役割の解析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において最も技術的に困難な点は,(1)がん微小環境における神経の役割を解析するための実験手法の確立,(2)唾液腺腺様嚢胞癌の動物モデルの作製の2点であった。(1)に関しては頭頸部扁平上皮癌モデルで世界でも最も先進的な解析方法が確立されたと考えている。また,(2)に関しても世界でも類を見ない動物モデルが実現可能であることが分かった。今後はこれらの実験手法を統合して,唾液腺腺様嚢胞癌における神経の役割の解明が進むと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度で確立された世界最先端の技術を用いて,がん微小環境に唾液腺腺様嚢胞癌細胞と神経細胞との相互作用を解明する実験を行う。 具体的には癌細胞より放出される細胞外小胞(特に細胞外小胞に含まれるマイクロRNA)の解析を行い,細胞外小胞からのシグナルによってどのような変化が神経細胞に起こりうるのかをin vitroおよびin vivoで検討する。また,患者検体を用いて唾液腺腺様嚢胞癌組織周囲の神経線維の密度,神経の種類を解析し,予後や治療反応性との関連を検討する。これらの解析を踏まえて,唾液腺腺様嚢胞癌患者の予後予測因子としての神経マーカーの意義を明らかにするとともに,がん関連神経を標的とした新しい治療法の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験および学会発表が次年度に先送りされたため次年度使用額が生じた。研究全体の進捗に遅れはなく,次年度に当初本年度に予定されていた実験及び学会発表を行う予定である。
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