研究実績の概要 |
嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎に対する予防と再発・重症化回避のためには、重要な起因菌である肺炎球菌につき現在実用化されている莢膜多糖体ワクチン(PPV)・蛋白結合型ワクチン(PCV)の弱点を補う次世代の肺炎球菌ワクチンの開発が急がれている。我々は肺炎球菌に共通する酵素蛋白でシアル酸の切断にて粘膜への菌定着をノイラミニダーゼA(neuraminidase A: NanA)に着目、高齢者かつ慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者の誤嚥性肺炎の発症・重症化への関与とNanA阻害型ワクチンの予防効果を明らかにすることを目指す。 平成31年度(令和元年度)の成果を報告する。肺炎球菌感染実験には全ゲノムが解析されている血清型4型野生株(TIGR4/WT)と同株より作成したNanA欠損株(TIGR4ΔNanA)を用いた。まず鼻腔での保菌と感染動態を確認するため若年マウス(6週齢, 雌)に対し覚醒下にて経鼻接種、感染後1, 3, 5日後における血液、鼻腔洗浄液、鼻腔・嗅球・大脳組織(破砕・懸濁液)における肺炎球菌数を確認した。野生型マウス(C57BL/6J)では有意差が得られずB細胞機能低下マウス(CBA/Nslc)を用いたところ鼻汁・鼻腔組織破砕懸濁液における肺炎球菌検出がTIGR4ΔNanAで有意に減少し鼻腔への定着防御にNanAの欠損が関与すると考えられた。次いで誤嚥性肺炎モデルとして若年マウス(CBA/Nslc , 6週齢, 雌)に深麻酔ののち経鼻的に肺炎球菌 (TIGR4/WT, TIGR4ΔNanA)を過量接種、感染後1, 3, 5, 14日後における血液、肺胞洗浄液、肺組織(破砕・懸濁液)における肺炎球菌数を確認した。結果ほぼ全マウスが肺炎球菌菌血症に陥り、かつ肺胞洗浄液において肺炎球菌が検出されたマウスはTIGR4/WT、TIGR4ΔNanAのいずれにおいてもわずかであった。
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