研究課題/領域番号 |
19K09882
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研究機関 | 滋賀県立総合病院(研究所) |
研究代表者 |
扇田 秀章 滋賀県立総合病院(研究所), その他部局等, 専門研究員 (20761274)
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研究分担者 |
松本 昌宏 滋賀県立総合病院(研究所), その他部局等, 専門研究員 (80773811)
伊藤 壽一 滋賀県立総合病院(研究所), その他部局等, 特任上席研究員 (90176339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工内耳 / 周波数分解能 / 生体親和性 / 導電性高分子 / PEDOT/PSS |
研究実績の概要 |
人工内耳の周波数分解能向上のために必要な技術開発の研究を行っている。 人工内耳の周波数分解能を向上するためには人工内耳電極数を増加させるとともに、らせん神経節と電極との距離を縮めることが必要である。現在使用されている人工内耳では電極は蝸牛の鼓室階に存在しており、信号の受け手となるらせん神経節はRosenthal's Canal内に存在している。両者の間には一定の距離があるうえ、骨壁も存在している。人工内耳の周波数分解能を改善するために、電極を増やすだけでは電極から発出された電気刺激が近接するラセン神経節細胞も刺激してしまい、周波数分解能を改善することは難しい。電極と電極からの電気信号の受信部位までの距離と縮める方法として、本研究では、らせん神経節細胞の軸索を神経成長因子等を用いて、鼓室階へ伸展させ、さらに電極を生体親和性の高いとされる物質でコーティングを行うことで、伸展した軸索を電極に接触させる方法を考案した。生体親和性の高いコーティング材料として、高分子導電体であるPEDOT/PSSを使用した。白金電極と導電性高分子であるPEDOT/PSSでコーティングを行った白金線の生体親和性の比較を行うため、培養細胞中白金線及びPEDOT/PSSでコーティングを行った白金線を培養細胞に留置し、培養細胞に与える影響について調べた。培養細胞としては、最初に新生児ラットのらせん神経節細胞を用いたが、均一に培養することが困難であったため、増殖能が高い、モルモットの骨髄間葉系細胞を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
導電性高分子であるPEDOT/PSSのよるコーティングの効果を見るため、白金線をPEDOT/PSSでコーティングを行い、培養細胞への影響を調べた。 培養細胞として、最初に、ラット新生児らせん神経節細胞を用いた。ラット新生児よりらせん神経節細胞を採取して、培養を行い、培養皿に白金線及びPEDOT/PSSでコーティングを行った白金線を留置し、培養細胞へ与える影響を調べた。らせん神経節細胞は増殖能が乏しく、培養皿に均一に培養することが困難であったため、影響の際を評価することが困難であった。そのため、増殖能の高い、モルモット骨髄間葉系細胞を用いることとした。モルモットの大腿骨から、骨髄間葉系細胞を採取し、1~2代継代を行い、培養皿中に均一に培養ができるようになった時点で、細胞継代と同時に培養皿に白金線及びPEDOT/PSSでコーティングを行った白金線を留置した。白金線及びコーティングを行った白金線ともに培養細胞に障害を与えられず、コーティングによる生体親和性の増加については評価をすることができなかった。しかし、コーティングを行っていない白金線でも骨髄間葉系細胞に対して、明らかな障害を与える所見は認めず、電極としての使用には支障ないと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
らせん神経節細胞に対してではなく、骨髄間葉系細胞に対してではあるが、コーティングを行っていない白金線、PEDOT/PSSでコーティングを行った白金線とも障害を与える所見は見られなかった。今後はらせん神経節細胞の軸索を鼓室階へ伸展させるための研究を行う。 軸索は本来は蝸牛管内の有毛細胞へと伸展しているため、カナマイシンとフロセミドを用いて、有毛細胞を障害したのちに、浸透圧ポンプを用いて、神経成長因子を制演奏を通じて、鼓室階内に持続投与を行い、軸索を鼓室階方向に伸展させることが可能か評価を行う。 実験動物としてはモルモットを使用し、神経成長因子としてはBDNFの使用を予定している。浸透圧ポンプを用いて、4週間程度薬剤の投与を行い、その後蝸牛を回収し、軸索の伸展の有無を組織学的に評価予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた新生児ラットらせん神経節細胞では細胞障害の程度を評価するのが困難であったため、培養細胞をモルモット間葉系細胞に変更し、動物購入やらせん神経節細胞培養に要する薬品の費用が不要になったこと、また、新型コロナの流行により参加を予定していた学会が、次年度に延期やWeb上での開催となり、渡航の費用が不要となったため、当該助成金が生じました。当該助成金に関しては翌年度分として、浸透圧ポンプや聴力計測装置(ABR,DPOAE)設置のための費用に充てる予定です。
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