人工内耳や残存聴力活用型人工内耳(EAS)は高度から重度感音難聴であっても十分な聴取を得ることができる非常に優れた治療法であるが、その装用効 果は個人差が大きいことも報告されている。聴取能に個人差をもたらす要因としては、難聴発見時期、補聴器装用開始年齢、人工内耳装用開始時年齢、発達障害の有無、療育環境、コミュニ ケーションモードなどの様々な要因の関与が報告されているが、難聴の原因の違いも装用効果に個人差をもたらす大きな要因であると考えられている。 本研究では人工内耳やEASを装用している、先天性・遅発性感音難聴症例を対象に次世代シークエンサーを用いた既知難聴原因遺伝子の網羅的解析を行い難聴の原因を明らかにするとともに、原因ごとの臨床的特徴(難聴の発症時期、進行速度など)を明らかにし、原因に基づいて人工内耳の効果を予 測することを目的に研究を実施した。本年度は前年度までに引き続き、人工内耳装用患者の遺伝子解析を進めるとともに、難聴の原因遺伝子別に人工内耳装用効果の分析を行った。その結果、内耳得意的に発現する遺伝子が原因となっている難聴症例では、人工内耳装用後の聴取成績が良好であることを明らかにした。また、CDH23遺伝子など比較的頻度の高い難聴の原因遺伝子に関して検討を行い、難聴の自然経過(聴力の進行)が遺伝子変異の組み合わせにより異なることを明らかにした。また、CDH23遺伝子変異による難聴では補聴器・人工内耳の効果が良好であることを明らかにすることができた。
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