研究課題/領域番号 |
19K09887
|
研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
楯谷 智子 京都先端科学大学, 健康医療学部, 教授 (10512311)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 有毛細胞 / 蝸牛 / 発生・分化 / 外有毛細胞 / 内有毛細胞 |
研究実績の概要 |
治療法のない難聴の殆どが蝸牛有毛細胞の障害を原因とすることから、聴覚再生に向けた研究の多くが有毛細胞の再生を目的とした。蝸牛の内有毛細胞と外有毛 細胞は機能も異なり、内有毛細胞が聴覚情報を中枢に伝え、外有毛細胞は聴覚情報の増幅器として機能する。内有毛細胞と外有毛細胞の分化メカニズムを解明することは、聴覚再生研究の基礎として重要と考えられる。 Bmp4は様々な臓器の発生において機能するモルフォゲンであり、後脳からのBmp4シグナルが内耳誘導にも関与することが知られている。Bmp4は発生期蝸牛上皮において、感覚上皮予定領域の外側に特異的に発現する。Bmp4コンディショナルノックアウトの内耳はE13.5までの蝸牛発生早期の報告しかない。Bmp4受容体コンディショナルノックアウト(Alk3-CKO;Alk6+/-)はE15.5まで観察されており、感覚上皮予定領域外側領域が消失することから、Bmp4シグナルは蝸牛上皮の内側‐外側軸形成に関与することが示唆されている。しかし、有毛細胞分化は主にE15.5以降に起こるため、Bmp4シグナルの有毛細胞分化における役割は不明のままであった。 我々はBmp4シグナルの蝸牛感覚上皮発生における役割を解明するため、Bmp4下流因子であるとされるId‐3に着目し、これらの多重コンディショナルノックアウトを作成した。Id1/2/3の3重ノックアウトマウス蝸牛は蝸牛管の太さがランダムに変化し、正常蝸牛のようにはコイルしていなかった。また、感覚上皮予定領域外側領域が消失するだけでなく、外有毛細胞が著名に減少していた。本研究によって、Id遺伝子群は蝸牛の形態形成に必要な因子であり、また外有毛細胞など蝸牛外側の細胞配列に重要な役割を担っていることが明らかにされた。これらの研究結果をまとめて投稿し、査読付き英文雑誌(Developmental Biology)に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、本研究では蝸牛におけるBmp4コンディショナルノックアウトマウス(Bmp4floxed/floxed ; Emx2+/Cre)と薬剤誘導Bmp4トランスジェニックマウス(CAG-CAT-Bmp4; Emx2+/Cre) を作成し、各トランスジェニックマウスとコントロールマウス蝸牛上皮サンプルを用いRNA-Seqで網羅的解析を行ない、コントロールに比して増加あるいは減少の顕著な遺伝子を抽出し、新規の因子をも含め最も直接的に内側-外側軸形成と内有毛細胞-外有毛細胞分化に関与する制御因子を同定する予定であった。その後、関連領域における知見が増えたために、我々はId1/2/3多重コンディショナルノックアウトマウス蝸牛とコントロールマウス蝸牛上皮サンプルを用いてRNA-Seqで網羅的解析を行ない、また他施設で行なわれたRNA-Seqの結果と合わせて、直接的に内側-外側軸形成と内有毛細胞-外有毛細胞分化を制御する候補遺伝子を絞り込んだ。Cripsr-Cas9システムを用いることでノックアウトおよびfloxマウスを作成することにした。現在ファウンダーマウスは得られており、野生型マウスとの交配によるバッククロスをおこなっているところである。 研究課題の遅延理由は、COVID-19感染拡大による研究活動の制約によるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、ノックアウトマウスについてはファウンダーマウスと野生型マウスとの間にうまれたヘテロマウス同士を交配させて得られるホモ個体の蝸牛を解析する。floxedマウスについては、ファウンダーマウスと野生型マウスとの間にうまれたヘテロマウスをさらにEmx2+/Creと交配していくことで、コンディショナルノックアウトマウスを得て、その蝸牛を解析する。その結果、内側-外側軸形成と内有毛細胞-外有毛細胞分化を制御する因子が明らかになれば、蝸牛の内側-外側軸形成をin vitroで操作し、内・外有毛細胞の分化を誘導する手法を確立する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大により、研究活動・学会活動が制限されたため。
|