治療法のない難聴の殆どが蝸牛有毛細胞の障害を原因としており、聴覚再生に向けた研究の多くが有毛細胞の再生を目的としてきた。蝸牛の内有毛細胞と外有毛細胞は機能も異なり、内有毛細胞が聴覚情報を中枢に伝え、外有毛細胞は聴覚情報の増幅器として機能する。また、外有毛細胞はとりわけ、障害を受けやすいことが知られている。内有毛細胞と外有毛細胞の分化メカニズムを解明することは、聴覚再生研究の基礎として重要と考えられる。 我々はBmp4シグナルの蝸牛感覚上皮発生における役割を解明するため、Bmp4下流因子であるとされるId1‐3に着目し、Id遺伝子群は蝸牛の形態形成に必要な因子であり、また外有毛細胞など蝸牛外側の細胞配列に重要な役割を担っていることが明らかにした。次に我々はId1/2/3多重コンディショナルノックアウトマウス蝸牛とコントロールマウス蝸牛上皮サンプルを用いてRNA-Seqで網羅的解析を行ない、また他施設で行なわれたRNA-Seqの結果と合わせて、直接的に内側-外側軸形成と内有毛細胞-外有毛細胞分化を制御する候補遺伝子を絞り込んだ。その中でも我々はSall (Spalt-like)ファミリーとして知られる一群の遺伝子に含まれるSall3遺伝子に着目した。 2022年度にはCripsr-Cas9システムを複数回用いることでSall3 floxedマウスを作成し、系統として樹立した。現在、このfloxマウスを交配に用いてコンディショナルノックアウトマウスを作製しているところである。
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