頭頸部癌の中でも甲状腺癌は生物学的悪性度の低い分化癌から極めて悪性度の高い未分化癌に移行することが知られている。これまで分化癌である甲状腺乳頭癌 と未分化癌との分子生物学的な比較検討がなされてきたが、未分化転化に至るメカニズムは未解明である。 これまでの研究では、分化癌として手術を施行した症例で、組織学的検査により未分化癌と判明した偶発型未分化癌の関連遺伝子およびSOCS3、STAT3、IL-6など JAK-STAT経路に関連する遺伝子のコードするタンパクについて免疫組織染色により検討を行った。その結果、すべての例でBRAFの発現が分化癌成分および未分化 癌成分の両者で見られたのに対してp53は未分化癌成分のみで発現が認められた。SOCS3などJAK-STAT経路に関連する遺伝子については、免疫組織染色により75% の甲状腺乳頭癌でSOCS3のタンパク発現が認められたが、未分化癌では発現が認められなかった。このことは、SOCS3の発現低下によって未分化癌への転化が引き 起こされているという仮説を支持している。2022年度の研究では甲状腺未分化癌の細胞株を用 いたin vitro研究において、アデノウイルスベクターによるSOCS3導入により、細胞の増殖が抑制された。 以上のことから、甲状腺未分化癌に対するサイトカインシグナル阻害分子遺伝子導入が新たな治療法として期待される。
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