研究実績の概要 |
聴神経腫瘍 は、主に前庭神経のシュワン細胞から発生する神経鞘腫である。ほとんどは良性腫瘍であるが、難聴やめまい症状を引き起こし、増大すると小脳や脳幹を圧迫して死に至ることもある。しかし、「聴神経腫瘍がなぜ、前庭神経に発生し、またどのようなメカニズムで増大するのか」 未だ詳細は不明である。聴神経腫瘍の発生には腫瘍抑制タンパクである、MerlinをコードするNF2 遺伝子の異常が関与していると報告されている (Welling DB et al., Hum Genet. 1996) が、NF2 遺伝子のノックアウトマウスが前庭神経鞘腫を発生することはなく、腫瘍の増大速度とNF2 遺伝子異常が相関するわけでもない。さらには、これらの腫瘍遺伝子解析は欧米からの報告がほとんどであり、本邦での遺伝的バックグラウンドの違いも不明である。また聴神経腫瘍の95%以上に難聴を認める。その原因は前庭神経に発生した腫瘍による、蝸牛神経の圧迫や内耳の血流障害に起因すると考えられていた。しかし腫瘍の大きさと聴力は相関せず (Roosli C et al, Otol Neurotol, 2012)、また腫瘍よりも末梢側にあるはずの蝸牛内の神経細胞にも変性がみられるなど、腫瘍による圧迫だけでは説明のつかない事象が観察されている。つまり、② 「VSがなぜ、聴力障害を引き起こすのか」も、メカニズムがよくわかっていない。 これらの疑問点を解決するために、まず聴神経腫瘍の遺伝子変異および、タンパクなどの発現について網羅的に調べることとした。当院脳外科で行った、聴神経腫瘍の腫瘍組織サンプルをもちいて遺伝子の解析および遺伝子発現を制御するマイクロRNA,ゲノム情報の最終産物である代謝物について解析を行う。遺伝子については、パネル検査で行い、マイクロRNAはマイクロアレイで行う。また代謝物の解析は質量分析の手法を用いて行う。現在、倫理委員会の承認は得られており、解析するサンプルをリクルート中である。
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