研究課題
我々はこれまでにTERTプロモーター変異はPTCの予後予測分子マーカーであることを報告してきた。今年度は術前細胞診への応用を目指し、術前の細胞診検体と対応する術後の検体を用いてこの変異を解析し、その一致率を比較した。TERTプロモーター変異にはhot spotが2箇所あるが、一度に両方を区別することのできる核酸蛍光プローブを設計し、droplet digital PCR法にて高感度に変異を検出できる方法を開発した。55歳以上のPTC結節96例に対して行われた細胞診の針洗浄液検体のうち、89例で解析が可能であった。その結果、TERTプロモーター変異の頻度は25%、細胞診針洗浄液検体での感度82%、特異度98%、陽性的中率96%、陰性的中率92%であり、細胞診検体を用いたTERTプロモーター変異の検出は有用であることが示唆された。この研究結果は現在Endocrine-Related Cancer誌に投稿中である。TERTは正常なヒト体細胞では発現が認められないが、TERTプロモーター変異により転写因子の新たな結合領域ができることで転写が活性化されると考えられている。TERT mRNAは16のexonからなる約4kbの分子であるが、複数のスプライシングバリアントが存在し、バリアントによってはドミナントネガティブ効果や、テロメラーゼ機能はないのにアポトーシス耐性を誘導するものがあることが報告されてきている。我々は予備実験で、甲状腺乳頭癌症例においてエクソン7と8が欠失したスプライシングバリアントの発現を確認した。
2: おおむね順調に進展している
術前細胞診検体で悪性度を予測できる分子マーカーとしてTERTプロモーター変異の検出は有用であることを報告することができた。
TERTプロモーター変異やTERT発現は現時点で強力なマーカーであるが、特異度は高いものの感度が低く(マーカー陰性例はほぼ予後が良いが、マーカー陽性例は必ずしも予後が悪いとは言えない)、マーカー陽性症例群にも何らかの違い・追加因子が必要であることが示唆される。研究代表者らは、予備実験で「TERTプロモーター変異陽性のTERT発現」と「変異陰性のTERT発現」とでTERTのスプライシングバリアントの発現の比や、プロモーター領域のメチル化の違い(転写制御因子の結合がメチル化で阻害される)を確認しており、TERT発現の変化・機能の違い・追加因子が悪性度の違いに関連していると考えている。そこで、次年度はTERTスプライシングと転写制御に着目し、甲状腺癌の高度進展メカニズムを明らかにすることを目的とする。droplet digital PCR法にてTERTのスプライシングバリアントを定量し、臨床病理学的指標との関連を明らかにする。
甲状腺癌におけるTERTの機能について検討する予定であったが、TERT mRNAのスプライシングバリアントについて新たな知見が得られたため、この解析を行った。また、今年度は旅費を使用しなかった。このため、TERTの機能解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
J Clin Endocrinol Metab.
巻: 105 ページ: e4328-36
10.1210/clinem/dgaa573