研究課題/領域番号 |
19K09916
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大島 猛史 日本大学, 医学部, 教授 (40241608)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 耳管開放症 |
研究実績の概要 |
耳管は中耳と鼻咽頭を連結する約3.5cmの管状構造物で、中耳の恒常性維持に非常に重要な役割を担っている。これを構成する細胞は腺細胞、筋細胞など多岐にわたり、耳管の繊細な機能を担っているが、その破綻は真珠腫性中耳炎、癒着性中耳炎といった難治性中耳病変の原因となる。現在でも制御困難な難治性中耳炎は多い。本研究は、脱分化脂肪細胞(DFAT)と本研究者らの作製した耳管障害モデル動物を用いて、病的な耳管構造を改変し、その機能を正常化すること、そして、臨床データの解析を加え、難治性耳管障害の新治療の開発を目指した研究である。DFATは本邦で開発された細胞再生用ドナー細胞である。中胚葉系幹細胞と類似の優れた多分化能を有する再生医療細胞資源である。DFATはiPS細胞、ES細胞などと比べ、培養が容易で、調整コストが安価で、医療経済的にも優れると言える。遺伝子操作やウイルスベクターを使用しないので、癌化の心配もないことからiPS細胞と比べて低コストでの作製が可能なため臨床応用への可能性は極めて高いと考えている。その優れた組織修復、リモデリング作用に着目し、耳管障害モデルラットにDFATを移植することにより耳管構造を改変する方法を確立することを目的として本研究を立案した。これは現在まで有効な治療法の確立されていない難治性中耳・耳管疾患の新治療戦略へと展開し、聴覚障害の克服を通じて国民福祉に寄与することが期待される。DFATの移植部位となる耳管咽頭口は顎顔面の深部にある。ラットではヒトと頭部形態が異なりDFAT注入のアプローチを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラット耳管咽頭口へのDFATの注入方法について経鼻ルート、経口蓋ルート、経上顎洞ルートの3つのルートを検討した。極細内視鏡下に操作している。DFAT注入前に色素を用いて組織内への浸潤範囲を検討しているが、効率的に耳管粘膜下への浸潤を達成するためにさらなる検討が必要である。現状においてはラットでの再現性のあるDFAT移植方法が確立することができず、この点から進捗状況は遅れていると言わざるを得ない。大学院生3名の協力のもとに研究を行う体制をとっているが、役割分担を見直し、注入方法の確立について早急に是正するように体制を変更することを考えている。 耳管障害については臨床的に診断基準が整備されたのはつい最近のことである。本研究の裏付けとなる耳管閉鎖障害の臨床データの解析についてはこれまでのデータを診断基準をもとに再編し、症状、鼓膜所見、耳管機能検査所見等から検討している。その一部については2020年度にOtology Japan誌にその成果を掲載することができた。さらに側頭骨CTにおいて耳管閉鎖障害症例の耳管構造の解析中である。これまで臨床的に耳管機能を根本的に正常化する治療法は存在しない。近年、耳管そのものにアプローチする試みも見られてきた。耳管内シリコンプラグ留置を行い、後方視的に解析しているが、この点についても動物実験を追加し、組織変化の検討を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年に難治性耳管閉鎖障害に対して新治療(耳管ピン手術)が保険収載された。その効果は約80%と報告されているが、耳管分泌に対する影響についてはまだ検証されていない。この点については基礎および臨床的に研究を進める必要がある。そして、正常ラットでの耳管咽頭口付近へのDFAT注入方法を確立することをめざす。これが確立すれば一気に研究の進展が得られると期待される。経鼻ルートでは注入を行うにはやや狭小であり、経口蓋あるいは経上顎洞といった別のルートを再検討する必要がある。また、鼻咽腔閉鎖不全は耳管障害に影響を与えていると考え、その治療について、咽頭後壁粘膜下にDFATを注入し、成熟脂肪細胞注入と比較して移植細胞の生存率を検討することを行う。DFATの作製自体はすでに確立しているので、これからは非誘導の状態で注入するか、あるいは脂肪細胞への誘導をかけてから注入するかの検討も行っていく。DFATの生体での効果として①耳管組織での生着率および生着部位、②耳管圧の変化(耳管閉鎖障害に対する有効性の検討)、③分泌される生理活性物質の種類、およびその定量、④粘膜下組織の変化(コラーゲン増生など)、⑤分泌組織(耳管腺、杯細胞)の変化を検証していく。特に、耳管圧の変化については、病的な状態である耳管障害モデルラットを用いて耳管圧の正常化を検討する必要がある。本研究では小動物(ラット)を用いてDFAT治療の有用性を明らかにすることを研究目標とするが、ラットでの有用性が明らかになれば将来的には大型動物(ミニブタ)を用いた研究に進み、最終的にはヒトでの臨床応用実現をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルスの影響があり、実験を中断せざるを得なかった。今後の使用計画については、研究協力者の役割分担を見直し、遅れている領域、とくに注入方法の確立について集中的に早急に是正するように体制を変更することを考えている。また、ラットの手術法に関する技術を持った研究者から情報を得ることも考えている。そのため、今後は実験試薬などの消耗品費、謝金、情報交換に必要な費用などが増加すると見込まれる。
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