耳管は中耳と鼻咽頭を連結するヒトでは約3.5cmの管状構造物である。これを構成する細胞は腺細胞、筋細胞など多岐にわたり、耳管の繊細な機能を担い、中耳の恒常性を保っている。その破綻は真珠腫性中耳炎、癒着性中耳炎といった難治性中耳病変の原因となる。現在でも制御困難な難治性中耳炎は多い。本研究は、脱分化脂肪細胞(DFAT)とすでに本研究者らの作製した耳管障害モデル動物を用いて、病的な耳管構造を改変し、その機能を正常化することを目指した。 ラット耳管咽頭口へのDFATの移植方法について経鼻ルート、経口蓋ルート、経上顎洞ルートの3つのルートを検討した。本研究で困難であった点は、低侵襲にラット耳管にDFATを注入移植する手法の開発であった。注入針は当初は30G針を用いることにしていたが、ラット耳管粘膜下への的確な注入を考え、先端を彎曲させた31G針を作製した。DFAT注入前に色素を用いて組織内への浸潤範囲を検討しているが、効率的に耳管粘膜下への浸潤を達成するためにさらなる検討が必要である。現状においてはラットでの再現性のあるDFAT移植方法が確立することができていないが、細径内視鏡の導入などを通じて注入方法の確立の見込みを立てることができた。 本研究の裏付けとなる耳管閉鎖障害の臨床データの解析については着々とデータを集積することができた。診断基準上、耳管開放症確実例(耳管閉鎖障害とほぼ同義)と診断された症例697例を解析した。シリコンプラグで耳管を閉鎖することにより臨床症状の改善および耳管機能検査上の改善が得られた。これはDFATによる耳管構造の改変が臨床的に有効であることを示唆する結果であった。
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