研究課題/領域番号 |
19K09924
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩田 大樹 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70374402)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ぶどう膜炎 / PAI-1 / 実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎 / EAU |
研究実績の概要 |
線溶系の異常と炎症が関連する病態はぶどう膜炎や内眼手術後の患者でもしばしばみられ、眼内での炎症が増強するとともにフィブリンが前房内に析出し、虹彩前癒着、虹彩後癒着、続発緑内障などを合併し、不可逆的な重篤な視機能障害をきたすことがある。プラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1)は線溶系の生理的阻害因子の一つと考えられている。PAI-1の増加はアテローム性動脈硬化や心筋梗塞に代表される血栓症の誘引となり、動脈硬化症や血管の再構築に関与する。 一方でPAI-1の発現はトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)、インターロイキン1(IL-1)などの炎症性サイトカインに制御され、炎症局所で発現が上昇すること、さらに近年では活性化マクロファージの遊走に不可欠なタンパクとして知られている。これらからマクロファージ浸潤に伴う激烈な炎症と線維化に至る疾患の新たな治療標的分子として注目されている。しかしながら現在まで眼炎症疾患における眼局所でのPAI-1の動態やその関与について報告されていない。 本研究は眼炎症疾患の動物モデルを用いてPAI-1の関与を解明すること、PAI-1阻害薬による眼炎症の軽症化について検討することを目的としている。実際のぶどう膜炎患者からの得られた血清、硝子体液を用いてPAI-1濃度を評価した。血清中では有意な変化はみられなかったが、眼局所である硝子体液中ではPAI-1濃度が高くなっていること、その変化はその他の炎症性サイトカインの変化と相関していることが明らかとなった。さらに実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎EAUマウスモデルで眼炎症の増悪とともにPAI-1の網膜ぶどう膜での発現が亢進すること、同モデルを用いた検討でPAI-1阻害薬IMD4482により臨床的重症度が有意に改善したことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実際のぶどう膜炎患者と対照群の患者についてPAI-1ならびに炎症性サイトカインの血中濃度を測定した。ぶどう膜炎患者として、非感染性ぶどう膜炎の原因がサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病などの診断がされている者、対照群には炎症所見を呈さない眼疾患(網膜前膜、黄斑円孔など)かつ眼内を含む全身に炎症性疾患の合併を認めない者とした。PAI-1は対照群と比べ血中では有意な変化はみられなかった。一方で、硝子体液中ではぶどう膜炎群において対照群と比べ有意に高く、炎症性サイトカインであるTNF-a、 IFN-γ、IL-17、P-selectinと有意な相関もみられており、炎症の変化とともに変化していることが示唆された。 本研究では、医薬分子設計研究所が創薬するPAI-1阻害薬IMD4482を用いる計画で、その提供が2020年1月にあったことから実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎EAUマウスモデルに関する眼炎症抑制効果についてin vivoで検討した。 EAU誘導による網膜ぶどう膜炎におけるPAI1の発現の変化について検討するため、免疫後のEAUマウスとその対照として網膜抗原ペプチドを投与していないマウスの網膜ぶどう膜を採取し、定量PCR法にてPAI-1のmRNAの発現変化を測定した。両群間で免疫後11日目には差がみられなかったが、16日目ではEAUマウスでPAI-1発現の亢進がみられていた。またEAU免疫の3日後から治療群にIMD-4482を、対照群には溶媒である0.5%CMC-Naをそれぞれ連日腹腔内投与し、免疫1週間後から、3-4日おきに21日目まで臨床的重症度を評価した。臨床的重症度は、治療群では対照群と比較して、14日目、17日目、21日目で有意に低下していた(p<0.05)。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では想定より研究にやや遅延ある。EAUの重症度を評価するために必要なIMD4482が確保できない状況があったことが主な要因であったが、2020年1月に確保できた。またCOVID-19による行動制限も計画からの遅延に影響があった。しかしながら現在までにEAUの臨床的重症度の評価を行い、さらにEAUとともにPAI-1も実際に眼局所で発現の亢進がみられていることも確認した。今後、その分子メカニズムを解析するため、網膜及び脈絡膜における炎症関連分子である interferon (IFN)-γ、interleukin (IL)-6、monocyte chemoattractant protein (MCP)-1、NF-κB、TNF-α、intercellular adhesion molecule (ICAM)-1、vascular cell adhesion molecule (VCAM)-1、P-selectinなどをELISA法 を用いて測定すること、Transwell assayを用いてIMD-4482によるマクロファージ遊走阻害効果についてのin vitroの検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染対策により、物品の購入、動物実験のための準備の遅延などがあり予定通りに計画を遂行することが困難な状況となっていたため。
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