研究実績の概要 |
線溶系の異常と炎症が関連する病態はぶどう膜炎や内眼手術後の患者でもしばしばみられ、眼内での炎症が増強するとともにフィブリンが前房内に析出し、虹彩前癒着、虹彩後癒着、続発緑内障などを合併し、不可逆的な重篤な視機能障害をきたすことがある。プラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1)は線溶系の生理的阻害因子の一つと考えられ、その増加は動脈硬化症や血管の再構築に関与する。 一方でPAI-1の発現はトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)、インターロイキン1(IL-1)などの炎症性サイトカインに制御され、炎症局所で発現が上昇すること、さらに活性化マクロファージの遊走に不可欠なタンパクとして知られている。これらからマクロファージ浸潤に伴う激烈な炎症と線維化に至る疾患の新たな治療標的分子として注目されている。しかしながら現在まで眼炎症疾患における眼局所でのPAI-1の動態やその関与について報告されていない。 本研究は眼炎症疾患の動物モデルを用いてPAI-1の関与を解明すること、PAI-1阻害薬による眼炎症の軽症化について検討することを目的としている。実際のぶどう膜炎患者からの得られた血清、硝子体液を用いてPAI-1濃度を評価した。血清中では有意な変化はみられなかったが、眼局所である硝子体液中ではPAI-1濃度が高くなっていること、その変化はその他の炎症性サイトカインの変化と相関していることが明らかとなった。さらに実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎EAUマウスモデルで眼炎症の増悪とともにPAI-1の網膜ぶどう膜での発現が亢進すること、同モデルを用いた検討でPAI-1阻害薬IMD4482により臨床的重症度が有意に改善したことを確認した。さらにTranswell Assayによる検討では, マクロファージの遊走は, 100μMのIMD-4482の添加により有意に低下することを確認した。
|