本研究は網膜色素変性に対する新規の治療法を開発することを目標にして、研究者の所属する研究室にて過去に報告したミトコンドリアカルパインを特異的に抑制できるペプチド(以下、カルパイン阻害ペプチドと称する)を網膜色素変性モデルラットの眼球強膜外に持続的に投与して、その視細胞変性抑制効果の有無を解析することを主たる研究課題とした。 ミトコンドリアカルパインは過去の研究により、ラット網膜変性の進行期でその活性が亢進し、その作用としてミトコンドリア内膜に存在するアポトーシス誘導因子を限定分解することでこれを活性化させ、この分子の核内移動を容易にして、アポトーシス反応の進行を促進することが想定されている。このカルパインを抑制することで視細胞のアポトーシスを抑制できないかというのが基本的な発想である。実際にカルパイン抑制ペプチドは網膜変性モデルラットにおいて、点眼投与によって網膜視細胞層にまで移行して視細胞の変性進行を抑制することが確認されている。しかし、ペプチドは低分子のため易分解性であることにより適切な濃度を保つためには頻回の点眼を必要とする。この点が臨床応用を考慮する際に認容性に難がある。このため徐放作用のあるデバイスを作成して持続的にペプチドを溶出させる方法を考按したものである。 当該年度は本研究の最終年度として実際に前年度までに作成したDDSを網膜色素変性モデルラットであるロドプシンP23Hトランスジェニックラットを用いて埋植実験を行った。生後20日のラット6頭の片眼球結膜下にカルパインペプチド徐放剤を埋植し、その後3か月間の視細胞変性の進行度について対照の非埋植僚眼と比較した。方法として、光干渉断層法(OCT)、網膜電図(ERG)、眼底所見、光学顕微鏡所見および電子顕微鏡所見を用いた。その結果、そのすべての検討項目において、埋植眼と対照眼との間に有意な差異は認められなかった。
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