研究課題/領域番号 |
19K09927
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
布施 昇男 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 教授 (10302134)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 緑内障 / 全エクソン解析 / 一塩基多型(SNP) / 関連解析 |
研究実績の概要 |
近年、一塩基多型(SNP)、欠失、挿入のゲノムデータベースは急速に充実し、データから個別化医療に向けてのインフラストラクチャーが整ってきている。眼科領域で失明原因の第一位である緑内障は、遺伝子と環境因子が関連する疾患であるが、いまだ原因遺伝子に関しては、その解明は途上である。本研究課題においては、家系を用いた遺伝子解析(おもに全エクソン解析)と、組織型との関連解析の大きな2点から、緑内障の原因遺伝子の解明を進める。 具体的には1)緑内障家系(成人発症の緑内障)における全エクソン解析から、緑内障の原因候補遺伝子の抽出、同定 2)先天緑内障遺伝子における全エクソン解析から、緑内障の原因候補遺伝子の抽出、同定 3)緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連解析を行い、緑内障の病態解明を目指す。1)緑内障原因遺伝子同定のための全エクソン解析から、GWAS緑内障関連遺伝子領域に候補となる希少変異を見出した 2)先天緑内障における全エクソン解析から、30%にCYP1B1遺伝子変異を、10%に転写因子のFOXC1遺伝子変異を見出し、原因遺伝子が特定されなかった家系においても候補となる希少変異を見出した。3)緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連解析では、若年発症(家族性有り、無し)と加齢性の緑内障に関し、線維柱帯切除術を行い採取した隅角組織から、光学顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡を用いた観察により、シュレム管の長さ、内皮細胞の状態について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)緑内障原因遺伝子同定のための全エクソン解析:インフォームドコンセントを得て収集した成人発症緑内障家系サンプル23家系69症例、孤発例41症例を用い、次世代シークエンサーによる全エクソン解析を行った。各々約数万の遺伝子多型を検出し、GWASによって報告されている緑内障関連遺伝子領域に希少変異が無いか検討した。プロファイル作成を行い、1q43 ZP4、2p21 SRBD1、9q31.1 ABCA1等のGWAS領域に存在する希少変異が候補遺伝子となった。 2)先天緑内障における全エクソン解析:遺伝形式が常染色体劣性形式もしくは弧発型と考えられる、先天緑内障において30家系32症例を収集し、全エクソン解析を開始した。9家系(30%)でCYP1B1遺伝子変異を、3家系(10%)で転写因子のFOXC1遺伝子に変異を見出し、18家系(60%)に原因遺伝子が特定されなかった。原因遺伝子が特定されなかった家系において、5つの希少変異が候補として考えられた。さらに、症例を増やし、全エクソン解析を進めている。 3)緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連解析:眼圧上昇という一連のカテゴリーに含まれる開放隅角緑内障の発症機序を探索するために、線維柱帯切除術を行い、緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連を探索した。緑内障原因遺伝子として確立されているMYOC異常を有する緑内障(MYOC緑内障)と有さない家族性緑内障(非MYOC緑内障)の隅角組織を光学顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡で観察した。隅角組織の相違をとして、MYOC緑内障では、線維柱帯の厚さが数倍に膨化していること、線維柱帯細胞の顕著な変性もしくは欠落を認め、間隙にはスペースはほとんど無いことが明らかとしたが、このたび、若年発症(家族性有り、無し)と加齢性の緑内障に関し、シュレム管の長さ、内皮細胞の状態等について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
緑内障に関しては、種々の発症機序による層別化がいまだ行われておらず、開放隅角緑内障として一連の疾患群とされている。今回、個別化医療に向け、日本人における緑内障の原因遺伝子の同定、原因候補遺伝子の抽出と、緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連解析を進める。緑内障遺伝子解析の国内外の大きな流れは、症例数千検体と同規模の正常対照を用いたGWASであるが、解析で用いられる遺伝子多型は、アリル頻度が0.1以上の頻度の高い多型common variantである。緑内障は、低頻度の多型rare variantと高頻度の多型common variantが原因となるheterogeneousな疾患であると考えられる。しかし、国内外ともに、次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析は進んでいないのが現状である。緑内障の発症に効果が大きいrare variant解析を本研究で進めることにより、common variantだけでは説明できない遺伝性Missing heritabilityが解明できると期待される。 また、緑内障遺伝子と表現型、組織型の関連解析は、新しい試みであり、検体の収集、観察と共に遺伝子変異探索を引き続き継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、検体の収集等を行い、次世代シークエンサーで解析を行う準備を行うこととしたため、次年度使用額が生じた。2020年度は、緑内障検体約20検体につき(一検体約8万円で計約160万:2019年度使用額84万と2020年度物品使用予定額72万の約160万円を充当)、次世代シークエンサーによる全エクソン解析を行う予定である。
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