研究課題/領域番号 |
19K09928
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上野 真治 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (80528670)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 網膜変性 / 網膜電図 / 遺伝子改変マウス / アディポネクチン / CTRP9 / AdipoR1 |
研究実績の概要 |
Adiponectin receptor-1 (AdipoR1)ノックアウトマウス、Adiponectin receptor-1のリガンドの一つであるCTRP9のノックアウトのERGの解析を主に行った。AdipoR1KOマウス8週令、同齢の野生型(WT)を対象にERGを記録した。KOマウスでは暗順応下の10cd-s/m2の刺激でWTのa波が約1/3に低下していた(P<0.001)、b波は約3/4に低下していた(P=0.04)。このことは、既報通りAdipoR1KOマウスでは網膜が変性することを示していた。次にこの変性が、網膜色素上皮の機能障害による2次的な視細胞障害によるのか、視細胞直接障害によるものかを確認するため、ERGのc波にて評価をした。AdipoR1KOマウスとWTマウスで両者が同等のa波を呈する刺激条件(WT: -0.5 log cd-s/m², KO:1.0 log cd-s/m²)でERGを記録しc波を評価した。結果は両者ともc波の振幅は150μV程度で差はなかった。このことはAdipoR1KOマウスによる網膜変性は、網膜色素上皮の機能障害による2次的障害ではないことを示していた。 一方、CTRP9ノックアウトマウスは8週齢と24週齢のマウスのERG記録した。CTRP9ノックアウトマウス両年齢ともに同週齢のWTマウスに比較して暗順応下のERGはa波、b波ともすべての条件で振幅に差はなかった。一方、明順応下の最大刺激のERG b波はWTマウスと比較して8週齢では約64 %、24週齢では53 %であり振幅は有意に減弱していた。このことはCTRP9ノックアウトマウスでは錐体機能が低下していることを示していた。ただし8週齢のおける振幅と24週齢における振幅に有意差はなくこの機能低下は進行性ではなく、停在性である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りAdiponectin receptor-1 (AdipoR1)ノックアウトマウスとCTRP9ノックアウトマウスについて解析が進んでいる。AdipoR1ノックアウトマウスに関しては、当初網膜色素上皮の異常によりリポフスチンの沈着が生じドルーゼンを生じて、二次的に視細胞が変性するのではないかと推測していた。しかし、今回の実験の結果は視細胞の直接的な関与を示唆するものであった。このことは当初想定していた、AdipoR1ノックアウトマウスが萎縮型加齢黄斑変性のモデルマウスという予想が間違っていたことを意味している。海外からのAdipoR1ノックアウトマウスの解析でも、このマウスはDHAの欠乏により直接視細胞が障害されるという報告があり、萎縮型加齢黄斑変性のモデルマウスではない可能性が高い。 一方、CTRP9ノックアウトマウスに関してはERGで錐体のみの機能不全という珍しい表現型をもつマウスであることが分かった。またこの錐体の機能低下は進行性ではないことから、視細胞の分化の過程での異常による可能性が高い。他の研究から報告されていうる網膜のシングルセルRNAseqの解析では、CTRP9自体はあまり網膜で発現はしていないようなので、どのようなメカニズムでこのような機能低下を生じるかのメカニズムをどのように見つけるかが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
Adiponectin receptor-1 (AdipoR1)ノックアウトマウスに関して、2019年度の研究の結果、萎縮型加齢黄斑変性のモデルマウスではないと推測された。そのため、萎縮型加齢黄斑変性のモデルとしてDHAの過剰投与、光障害による変性の促進の観察に関してはひとまず研究を中断することとした。 一方、CTRP9ノックアウトマウスに関して錐体機能低下の原因を探るためさらなるERG解析をおこなう。特に青錐体と緑錐体の機能を見るためにLEDによる色ERGを記録を行う予定である。また、網膜内の分子生物学的な変化を網羅的に観察するためにノックアウトマウスとWTマウスの網膜を摘出しRNAseqを行い二つのマウスのRNAの発現の相違を確認する予定である。また予定通り網膜の免疫組織染色を行い、錐体や杆体の形態を詳細に観察し錐体機能の差が形態の差として表れているか確認する。また、可能であれば電子顕微鏡レベルで視細胞の観察を行い、どのような病態で錐体機能の異常が生じているかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスに伴う、学会の延期、打ち合わせの中止に伴い予定していた支出がなくなったため。次年度にこれらの経費を利用して学会参加並びに打ち合わせを行う予定である。
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