研究課題/領域番号 |
19K09929
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
大石 明生 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 講師 (50572955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 網膜色素変性 / stop codon readthrough / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
これまで原因遺伝子が特定できていなかった220人の網膜色素変性患者に対して、全ゲノムシークエンスによる遺伝子解析を行った。検出されたバリアントの病原性を慎重に評価し、98人(44.5%)で原因となる変異を特定し、さらに22人(10.0%)が原因となりうる変異を少なくとも一つ持っていることを確認した。原因が特定された症例のうち50人(51%)はEYS遺伝子の変異によるもので、この遺伝子が本邦に網膜ジストロフィ患者において大きな位置を占めることが確認された。またこれまでの解析で原因遺伝子が明らかになった症例のうち本邦では珍しいPROM1遺伝子変異の症例について、他施設の症例と合わせて10例での報告を行った。 対象となる患者の情報を収集する過程で、本疾患では60歳を過ぎても光覚なしにまで至る症例は1%以下と少なく、視力0.7以上を保つ症例が約半数いること、環境因子、特に喫煙歴が視力や網膜形態と相関すること、網膜変性でしばしばみられる羞明という症状は網膜色素変性では主に短波長の光で、錐体杆体ジストロフィでは中波長の光でも引き起こされること、網膜色素変性でも黄斑部に変性がある症例では中波長の光の影響が大きくなることなどを見出し、結果を報告した。 EYS遺伝子変異による網膜色素変性患者由来iPS細胞を視細胞様に分化誘導し、治療候補となる薬剤のスクリーニングを行う計画であったが、in vitroでは視細胞死という表現型があまり現れないため、EYS遺伝子をノックアウトしたゼブラフィッシュでの解析を開始した。また他の遺伝子による症例からもiPS細胞を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は緊急事態宣言、特に一度目の宣言下で、不要不急の実験停止という方針が出された影響により、細胞実験などいくつかのプロジェクトで困難な面があった。一方通常業務が一部制限されたことで出来た時間で、データ解析などは順調に行えた。 実績に述べたように遺伝子解析については予定のサンプルの解析を終了し、結果を報告し一段落した状態である。現在も継続的にサンプルを収集しており、解析を続けることで本邦での当該疾患の原因遺伝子の分布など様々な治験が蓄積できるものと考える。学会中心に国内で稀な網膜変性疾患のレジストリを構築する事業に研究代表者も参画しているが、このプロジェクトも進展しており、今後まとまった症例数での検討が可能になると思われる。また遺伝子解析を行う過程で得られた臨床情報から環境因子の影響を示唆する結果が得られており、今後の発展が期待される。 新規遺伝子探索については、当初第一候補としていた遺伝子については昨年度の検討で疾患とは関係ないものと結論づけ、別の候補を探索中である。ただし新規遺伝子の報告は減少傾向であること、既報の遺伝子の解析で約半数が同定出来、さらにヘテロ接合で候補となる変異を持つ症例が一定数いることから、既報の遺伝子内でこれまでの解析では見つけにくい変異を探す方が診断率の向上という点からは効率がよいと考え、そのような方向で検討を進めている。 患者由来iPS細胞による治療効果判定については、適切な評価系が確立できないため、ゼブラフィッシュでの機能解析を行いつつ、条件設定などを検討することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子診断については引き続き発端者、および患者家族のサンプル収集を続ける。研究代表者が所属する機関の診療圏の中で離島部など、有病率が高いと思われる地域があり、発症者の多い家系を探し、新規候補遺伝子の探索につなげることを目指す。またヘテロ接合で候補変異を持つ症例を中心に、大きな欠損や重複など、これまでの解析では見つけにくい変異をリード数の解析やlong read sequencingなどの方法で検出することを試みる。上記のように網膜変性疾患のレジストリ事業が進行しており、これを介して国内の各施設と連携することで、症例数を増やしての解析を行う予定である。いくつかの遺伝子については既にプロジェクトが動いている。 新規遺伝子については、人工知能を活用し、これまでに分かっている原因遺伝子を学習データとして、見つかっているバリアントのある遺伝子の中から、関連性の高いものを選ぶことで新たな候補を探ることを行っている。有望な候補が見つかればゼブラフィッシュまたはマウスのノックアウトで表現型を確認する。 iPS細胞の実験については、得られた結果から環境因子での負荷を与えることで、正常との差を検出することを検討している。そもそもEYS遺伝子の機能が良く分かっていないということが根本にあるので、EYSノックアウトゼブラフィッシュの検討で、その機能や遺伝子欠損の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は移動の制限により旅費の支出が少なくなったことが大きかった。また実験が停止された期間があったことも影響した。 再開した実験及び、移動制限が解除された際の旅費などに充当する予定である。
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