これまで原因遺伝子が特定できていなかった220人の網膜色素変性患者に対して、全ゲノムシークエンスによる遺伝子解析を行った。検出されたバリアントの病原性を評価し、98人(44.5%)で原因となる変異を特定し、さらに22人(10.0%)が原因となりうる変異を少なくとも一つ持っていることを確認した。原因が特定された症例のうち50人(51%)はEYS遺伝子の変異によるもので、この遺伝子が本邦に網膜ジストロフィ患者において大きな位置を占めることが確認された。またこの解析で原因遺伝子が明らかになった症例のうち本邦では珍しいPROM1遺伝子およびPRPH2遺伝子が原因の症例について、他施設の症例と合わせて報告を行った。 対象となる患者の情報を収集する過程で、本疾患では60歳を過ぎても光覚なしにまで至る症例は1%以下と少なく、視力0.7以上を保つ症例が約半数いること、環境因子、特に喫煙歴が視力や網膜形態と相関すること、光照射も網膜に悪影響を及ぼし得ること、網膜変性でしばしばみられる羞明という症状は網膜色素変性では主に短波長の光で、錐体杆体ジストロフィでは中波長の光でも引き起こされること、網膜色素変性でも黄斑部に変性がある症例では中波長の光の影響が大きくなることなどを見出し、結果を報告した。 EYS遺伝子変異による網膜色素変性患者由来iPS細胞を視細胞様に分化誘導し、治療候補となる薬剤のスクリーニングを行う計画であったが、in vitroでは視細胞死という表現型があまり現れなかった。研究の過程でCRXとNEUROD1を導入することで効率よくiPS細胞を視細胞様に分化させられることを見出しこれを報告した。また他の遺伝子による症例からもiPS細胞を樹立した。
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