研究課題/領域番号 |
19K09935
|
研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
今村 一之 前橋工科大学, 工学部, 教授 (30203326)
|
研究分担者 |
柿崎 利和 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (50375531)
柳川 右千夫 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90202366)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | GABA合成酵素 / 眼優位可塑性 / c-Fos / 第一次視覚野 / ラット |
研究実績の概要 |
Crisper Cas-9遺伝子編集システムを用いて、抑制性神経伝達物質GABAの合成酵素であるGAD-67遺伝子のノックアウトラットを作製し、これを用いて眼優位可塑性に関する二つの実験を実施した。 本年度の実験に用いた合計138匹のF3について遺伝子型判定を行った結果、Wild型、Hetero,Homo型それぞれ47(34%)、80(58%)、11(8%)であった。メンデル則から予想される発現数とは異なり、ホモ型の収率が低いことが明らかになった。ホモ型が出生後に口蓋裂および臍帯ヘルニアにより死亡する確率が高いことを示しており、GAD67遺伝子が正常な生後発達に重要な役割を果たしていることが確認された。 これらのラットをウレタン麻酔下に定位固定し、第一次視覚野両眼性領域 (Oc1B)より単一神経細胞活動を記録した。光反応を子午線に近い位置から単一神経細胞活動を記録することができた。しかし、高コントラストの刺激が必要であり、且つ電気生理学的方法では、一側半球から得られる記録が少数でサンプリングバイアスがさけられないことがわかった。 ホモ型のノックアウトラットを用いて単眼遮蔽期間を5ヶ月に延長し、その後Activity Mapping法を適用したところ、遮蔽眼刺激に対する免疫陽性細胞数は有意に減少しており、眼優位可塑性が発現していることが確認された。GAD-67ノックアウトラットにおいては、2週間の単眼遮蔽では、眼優位可塑性の低下が証明できるが、単眼遮蔽期間を延長することでその可塑性の低下が認められないことがわかった。 このことからGAD67遺伝子の欠損を補う何らかの機構が作用した可能性、あるいは、抑制が低下して成熟した視覚野では、可塑性が促進された可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
c-Fos Activity Mapping法に関しては十分に技術的向上があり、さらなる良質なデータが得られるものと期待される。電気生理学的評価については、現在まで単一神経細胞記録について検討し、光反応は記録できてきたが、受容野の境界が不明瞭であること、記録可能な神経細胞数が1記録トラックあたり、10個未満であること、一つの半球から得られる記録データのサンプリングバイアスが避けられない事などの問題が明らかになった。これらの問題を解決するためには野生型ラットを用いたさらなる検討が必要になると思われる。また、ネコの視覚野では、単眼遮蔽の効果はまず眼優位分布ヒストグラム上で両眼性細胞群の割合の低下に始まり、その次の相で開眼側へのシフトが生じるが、マウスやラットの場合は、これまでの電気生理学的研究では、徐々に分布が開眼側へシフトしており、両眼性細胞の割合の低下が認められない。これらは、そもそもラットやマウスの様に生来両眼性視野領域が限定されているモデルでは、眼優位可塑性の変化のダイナミクスが異なっている可能性が考えられた。ラットの系で最適な眼優位可塑性の評価法が申請者らの適用しているc-Fos Activity Mapping法であることをさらに明らかにしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
ホモ型のラットを十分な数入手するためには、交配と遺伝子型確認に労力が必要であるが、申請者が定年退職で自身の研究室を閉じたことから、これまでこの作業にあたっていた人材を新規に確保する必要がでてきた。今年度が最終年度であるが、早急に人材の確保に努めたい。今年度は、これまでのGAD 65及び67ノックアウトラットの眼優位可塑性に関する研究の成果を英文の原著論文としてまとめる。そのために必要な追加実験、調査を実施する。特にc-Fos Activity Mappingについて、データ量が十分位なるよう、限られた数のラットを有効に活用していく。分担研究者との会議を定期的に実施することで、効率的に必要な実験をピンポイントに実施していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大防止のために、学会発表や国際学会参加の旅費の執行が不可能であった。今年度の研究の結果、GAD67ノックアウトラットの収率がこれまでに予想した結果よりかなり低いため、交配数を増加させる必要があるが、代表申請者が定年退官で研究室を閉じたため、新たにノックアウトラットの作製支援に必要な人材を確保する必要がでてきたこと、また動物実験についても新たに支援が必要であるためその人件費をこれまでより増額して使用する計画である。
|