我が国における失明原因の多くは網膜および視神経の変性疾患で占められる。特に最大の失明原因である緑内障に対しては、眼圧降下以外の手法による治療法の開発が期待されている。本研究では網膜神経節細胞(RGC)の変性モデル動物や視神経挫滅モデル動物を用いて、既存薬や遺伝子治療などを駆使した視神経の保護と再生療法の効果を検討する。 これまでに活性型TrkBのAAVベクターを緑内障の疾患モデルマウスに投与し、網膜神経節細胞の保護効果を得られることを確認した。また同ベクターを視神経挫滅モデル動物に投与した場合には、網膜神経節細胞の保護に加えて、大変強い視神経軸索の再生効果が得られることを見出した。さらに軸索に加えて樹状突起についても保護効果が観察され、網膜神経節細胞と双極細胞とのシナプス数についても、治療群で有意に増加することを確認した。 また当研究室では独自に開発した正常眼圧緑内障モデルとして、グルタミン酸輸送体(GLAST)の欠損マウスを使用している。同マウスにおけるRGC死には、慢性的なグルタミン酸毒性や酸化ストレスの関与が想定されている。同マウスを生下時から暗所飼育したところ、生後3週齢の時点でRGC変性が進行しており、それ以降はRGC数の減少は観察されなかった。通常飼育(明暗12時間交代)ではRGC変性は生後3~6週齢頃に進行することから、暗所飼育では変性が早まることがわかった。その理由として、暗所下ではGLAST欠損マウスの網膜内でグルタミン酸濃度が上昇する可能性がある。光環境が視細胞死に影響を与える可能性が以前から指摘されているが、緑内障においても同様のリスクはないか、今後も検討を続ける予定である。
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