研究課題/領域番号 |
19K09944
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
神田 敦宏 北海道大学, 医学研究院, 特任講師 (80342707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガレクチンー1 / 炎症 / 糖鎖 / 線維化 / 網脈絡膜疾患 |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症や加齢黄斑変性は、主要な中途失明原因の網脈絡膜疾患であり、生活習慣病や加齢による慢性炎症性疾患と位置づけられる。しかしながら、いまだ根本的な治療法の開発・疾患発症機序の解明には至っていない。申請者は抗VEGF阻害薬であるアフリベルセプト(VEGF受容体(VEGFR)-1と2のドメイン2および3から構成されている人工組換えタンパク質)上のVEGFR-2に存在するシアル酸含有N 型糖鎖を認識して、そこに糖鎖結合タンパク質ガレクチン-1が結合することを明らかにした。そして、このガレクチン-1は、VEGF非依存的に網膜血管内皮細胞におけるVEGFR-2に結合し、レセプターのリン酸化および細胞増殖を促進して、血管新生を惹起していることを明らかにした[Kanda A, et al. Sci Rep. 2015]。また、糖尿病網膜症においては、終末糖化産物AGEがマクロファージ上のToll様受容体4活性化し、IL(Interleukin)-1βの産生を促進し、そのIL-1βがミュラー細胞のIL-1受容体を刺激してガレクチン-1の合成が促進する機序を明らかにした[Kanda A, et al. Sci Rep. 2017]。ガレクチン-1は、腫瘍転移やアポトーシスなど様々な病理的機能を持っていることから、他の網脈絡膜疾患の病態形成にも関与している可能性は大きい。また、ガレクチン-1の網膜における生理的な機能に関しては多くが不明である。 そこで本研究では、これまでに得られたガレクチン-1の血管新生・線維化に関する研究成果をさらに発展させ、網脈絡膜疾患病態の炎症におけるガレクチン-1の病 態制御および生理的役割の知見を蓄える。そして、これを基盤とし網脈絡膜疾患に対する新たな分子標的としての治療戦略に確立して、臨床に おける疾患治療への貢献を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【ガレクチン-1欠損および過剰発現マウスを用いてガレクチン-1の網膜生理的機能への影響】 ガレクチン-1-KOを米国ジャクソン研究所から購入し、過剰発現マウスは自家作製し、網膜電図測定や組織学的解析を行った。その結果、正常マウスと比べて両遺伝子組換えマウスで明らかな変化は認められなかった。そこで、レーザー誘導脈絡膜血管新生(CNV)ならびに網膜下線維化モデルマウスを用いてガレクチン-1の網膜色素上皮(RPE)を介する病態形成への関与について検討した。その結果、ガレクチン-1は、RPE脈絡膜における血管新生および線維化の両方で病態形成に関わる重要な促進因子として機能していることが示唆された[Wu D, Kanda A et al., 2019 FASEB J]。
【炎症性サイトカイン IL-1β刺激によるガレクチン-1発現機序の詳 細な解析】 これまでに我々はインターロイキン(IL)-1β刺激により網膜ミュラーグリア細胞におけるガレクチン-1の発現が誘導される低酸素非依存性炎症経路を明らかにした。そこで、抗炎症作用を有するグルココルチコイドがIL-1βシグナル伝達を介したガレクチン-1発現の制御機構に関与するか検討した。その結果、グルココルチコイドによるIL-1βおよび糖尿病誘導ガレクチン-1/LGALS1遺伝子発現の抑制機序が明らかになった[Hirose I, Kanda A et al., 2019 J Cell Mol Med]。
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今後の研究の推進方策 |
ガレクチン-1は、IL-1β刺激以外に低酸素でもその発現誘導が起こることが報告されている。そこで、網膜ミュラーグリア細胞における低酸素条件下でのガレクチン-1の発現制御機構の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に沿って、研究費は順調に使用されている。予想より遺伝子組換えマウスの準備・解析などに時間を要したため、一部計画が行えていない。そのため、少額の研究費が残存したが、次年度の研究費として繰越を行った。 (使用計画) R1年度に施行予定であった実験計画やR2年度に行う予定の実験費用(細胞培養試薬、抗体、遺伝子発現解析試薬、プラスチック消耗品など)に使用する。
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