研究実績の概要 |
糖尿病網膜症や加齢黄斑変性は、主要な中途失明原因の網脈絡膜疾患であり、生活習慣病や加齢による慢性炎症性疾患と位置づけられる。しかしながら、いまだ根本的な治療法の開発・疾患発症機序の解明には至っていない。申請者は抗VEGF阻害薬であるアフリベルセプト(VEGF受容体(VEGFR)-1と2のドメイン2および3から構成されている人工組換えタンパク質)上のVEGFR-2に存在するシアル酸含有N 型糖鎖を認識して、そこに糖鎖結合タンパク質ガレクチン-1が結合することを明らかにした。そして、このガレクチン-1は、VEGF非依存的に網膜血管内皮細胞におけるVEGFR-2に結合し、レセプターのリン酸化および細胞増殖を促進して、血管新生を惹起していることを明らかにした[Kanda A, et al. Sci Rep. 2015]。また、糖尿病網膜症においては、終末糖化産物AGEがマクロファージ上のToll様受容体4活性化し、IL(Interleukin)-1βの産生を促進し、そのIL-1βがミュラー細胞のIL-1受容体を刺激してガレクチン-1の合成が促進する機序を明らかにした[Kanda A, et al. Sci Rep. 2017]。ガレクチン-1は、腫瘍転移やアポトーシスなど様々な病理的機能を持っていることから、他の網脈絡膜疾患の病態形成にも関与している可能性は大きい。また、ガレクチン-1の網膜における生理的な機能に関しては多くが不明である。 そこで本研究では、これまでに得られたガレクチン-1の血管新生・線維化に関する研究成果をさらに発展させ、網脈絡膜疾患病態の炎症におけるガレクチン-1の病 態制御および生理的役割の知見を蓄える。そして、これを基盤とし網脈絡膜疾患に対する新たな分子標的としての治療戦略に確立して、臨床に おける疾患治療への貢献を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【ミュラーグリア細胞における低酸素誘導ガレクチン-1発現の制御機構】 これまでに我々はインターロイキン(IL)-1β刺激により網膜ミュラーグリア細胞におけるガレクチン-1の発現が誘導される低酸素非依存性炎症経路を明らかにした。そこで本研究では、グルココルチコイドが低酸素を介したガレクチン-1発現の制御機構に関与するか検討しました。その結果、グルココルチコイドによる低酸素誘導ガレクチン-1/LGALS1遺伝子発現の抑制機序が明らかになった[Kanda A et al., 2020 J Cell Mol Med]。
【網膜色素上皮細胞における低酸素誘導ガレクチン-1発現制御と胎盤成長因子の自己誘導】 これまでに我々は, アフリベルセプトが血管内皮増殖因子ファミリー分子以外に糖鎖結合分子ガレクチン-1とも結合すること, 網膜色素上皮(RPE)由来のガレクチン-1が脈絡膜新生血管形成に関わる重要な分子であることを報告してきた。本研究では, RPEにおけるガレクチン-1の発現制御機構について検討した。低酸素下ではヒトRPE細胞におけるガレクチン-1発現は有意に増加し, プロモーター領域の解析により低酸素誘導因子(HIF)-1αの関与を明らかになった. さらに, 低酸素で誘導される胎盤成長因子(PlGF)が転写因子AP-1の活性化を介してガレクチン-1発現を亢進させた. また, PlGF添加によってPlGF 遺伝子発現が増加した。以上から, RPEにおけるガレクチン-1発現には低酸素/HIF-1αとPlGF/AP-1を介した制御機構があり, それらを修飾するPlGFの自己誘導が明らかとなった. [Yamamoto T, Kanda A et al., 2021 Invest Ophthalmol Vis Sci]。
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