研究課題/領域番号 |
19K09945
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
菅野 江里子 岩手大学, 理工学部, 准教授 (70375210)
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研究分担者 |
富田 浩史 岩手大学, 理工学部, 教授 (40302088)
田端 希多子 岩手大学, 理工学部, 特任准教授 (80714576)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オプトジェネティクス / 神経細胞 |
研究実績の概要 |
自然界にあるアニオンチャネルロドプシンとして、多波長型GtACR1や青型GtACR2が広く知られている。我々が開発したアニオンチャネルロドプシンは、GtACR2と同様に青色に感受波長ピークを持つが、キネティクスの面で優れ、神経活動の制御に有用である。また、UV光(400nm)に対する反応性は乏しいのが特徴である。UV光で刺激する系は、光刺激自体の毒性が網膜では高く、応用が難しい。さらに、独自に開発したアニオンチャネルロドプシンは、1μW/mm2の弱いLED光刺激によっても300pAを超える応答が得られることが、昨年までの研究で明らかにされており、これは既存のGtACR1、GtACR2と同等あるいはそれ以上の応答である。 その一方で、アニオンチャネルロドプシンは総じて膜移行性が悪いことが明らかとされており、開発したアニオンチャネルロドプシンもカチオンチャネルロドプシンであるチャネルロドプシン2や我々の開発したmVChR1などと比較すると、膜移行性が悪い。膜局在化を亢進できれば、光応答により得られる過分極応答が増大すると考えられる。そこで、バイオインフォマティクスを用いた新たな遺伝子の開発を行ってきた。 昨年までの研究から、1アミノ酸変異によりチャネル活性がなくなることを見出しており、これらの検討から、クロライドイオン透過に重要な役割を持つアミノ酸を同定している。本年度は更に、アミノ酸置換を行い、大きな特性の変化がある遺伝子が得られた。得られ結果を更にバイオインフォマティクス解析に戻し、アミノ酸の変化によるチャネル機能の変化が起きた原因の解明を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、機能予測を用いて開発したアニオンチャネルロドプシンの様々な変異体を作製し、パッチクランプ法を用いて、機能評価を行った。その中で、1アミノ酸の変異によりチャネル活性がなくなることを見出しており、これらの検討から、クロライドイオン透過に重要な役割を持つアミノ酸を同定している。 本年度は、得られた知見から、更にクロライドイオンの通過を増加させるタンパク質をバイオインフォマティクスを用いて予測し、キネティクスに重要な役割を持つアミノ酸配列、およびイオン電流に影響を与えるアミノ酸配列を持つ変異タンパク質を細胞で作らせ、アニオンチャネルとしての機能をパッチクランプ法により解析した。その結果、2つの大きな特徴を持つアニオンチャネルが得られた。1つは、光誘発電流が増大するもの、もう一つは、OFF応答の早いものである。これらの反応が得られたアミノ酸構造を再び、電流増大とOFF応答に着目してバイオインフォマティクスで戻し解析を行ったところ、電流増大が見られたチャネルにおいては、タンパク質の安定化エネルギーが低下している傾向が見られた。 また、膜局在化できたにも関わらず、光電流の減少が見られたクローンがあった為、アニオンチャネルロドプシンの細胞における膜発現とイオン電流との関係を調べた。その結果、予想外にも膜局在とイオン電流は負の相関があることが判明した。同様の解析をカチオンチャネルロドプシンで行ったところ、カチオンチャネルロドプシンでは、正の相関があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
バイオフォマティクスを用いたアミノ酸置換による機能改善のための予測、および得られた現象をバイオインフォマティクスへ戻し解析を行うことで、アニオンチャネルを改善するアミノ酸配列を推定することが可能となった。 今後、これらアニオンチャネルロドプシンを用い、加齢黄斑変性症により起こる視細胞死への抑制効果を検討する。網膜では、all trans retinalが視細胞死を招く重要なファクターのひとつであることが報告されている(Maeda, A. et al., 2009, J. Biol. Chem.)。また、この簡易なモデルである網膜色素上皮細胞を用いたall trans retinalによる毒性を検討する実験においては、NADPH oxidaseを介した活性酸素産生の増加が示されている。そこで、アニオンチャネルロドプシンを恒常的に発現する網膜色素上皮細胞株を用いて、all trans retinalによるこれら毒性を排除できるか、調べることとする。排除できた場合には、視細胞変性モデルにおいて有効性を調べる。光障害を与える前にアニオンチャネルロドプシンを発現させ、その後光障害を与える。アニオンチャネルがall trans retinalを次の反応に使用できない状態へ遷移できれば、視細胞変性の軽減が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、バイオインフォマティクスによるデザインと細胞におけるパッチクランプを用いた機能解析に時間がかかり、細胞・および動物モデルでの解析まで至らなかった。しかしながら、今回得られた結果は、これまでチャネルロドプシンにおいて一様に報告されてきた膜局在性と光反応性の正の相関がクロライドチャネルでは当てはまらず、逆に負の相関があることを明らかにした。 今後は、これら反応性が向上したクローンを用いて、細胞および動物モデルでの網膜変性保護に関する実験を行う予定であり、予算は細胞におけるall trans retial毒性への保護効果の検討および、動物モデルを用いた実験での解析および飼育費用に充てる予定である。
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