研究実績の概要 |
人工網膜では網膜電気刺激によって生じる興奮の広がる網膜上の大きさが知覚認知の基盤であり、刺激の弁別を考える時にも重要な要素である。この大きさには、閾値と、閾値を越えた刺激による反応性の両方が関与する。我々の脈絡膜上ー経網膜刺激法の場合、刺激電極が網膜の神経細胞との間に距離があるため、他の刺激方式に比べて刺激のために多くの電流量が必要であり閾値が高い。しかし、外側膝状体中継細胞からの単一ユニット記録によって、記録ユニットと刺激点との間の距離と閾値との関係を調べると、同じ距離であっても閾値が記録ユニット毎に大きく異なっていた。また閾値を超えた刺激による興奮の広がりにもバリエーションがあった。このような反応性のバリエーションの原因を明らかにするために、どのような要因が関係するかを調べた。記録ユニットのタイプ(On中心型Y細胞, Off中心型Y細胞, On中心型X細胞, Off中心型X細胞)、刺激点が記録ユニットの位置よりも鼻側か耳側か、用いた刺激電極が単独電極かアレイ電極か、あるいは埋植手術の違いなど記録動物個体ごとの差によるものか、を検討した。その結果、どれも反応性のバリエーションを説明する要因ではなく、網膜刺激で問題になる細胞体ではなく通過線維を刺激してしまう現象もこのバリエーションを説明するものではないことが分かった。一方、Off中心型細胞はOn中心型細胞よりも統計学的に低い電流量で反応する傾向にあることがわかった。これは網膜内における樹状突起の分枝する深さの違いに関係していると推測された。
|