研究課題
加齢黄斑変性(AMD)はわが国における視覚障害による身体障害の原因疾患の第4位で、国内に多い滲出型AMDでは、黄斑下に脈絡膜新生血管が発生し、放置すると急激に視力低下し不可逆的な視力障害に至る。抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射と光線力学的療法(PDT)で、多くの症例で、視力改善とその後、数年に渡って視力維持が可能となったが、しばしば生涯にわたって硝子体内注射の継続を必要とし、高額な薬価の問題に加え、高齢者を対象としているため、低頻度であっても脳梗塞など全身への影響、他の病気や認知症などで通院や治療の継続が困難となるなどの問題が浮き彫りになってきている。ドラッグデリバリーシステム(DDS)により薬物徐放できれば、長期間、安全な濃度で有効性を発揮できて、この問題を克服できるが、抗体医薬などのタンパク製剤の徐放は高い水溶性と高浸透圧の特性により、これまでの方法では困難であった。そこで、我々は、中空デバイス内を気体で満たした新しいDDS製剤の開発を行なっている。本製剤により、治療効果の長期維持と副作用の軽減、患者コンプライアンスの向上、医療費削減が期待できる。まず、緑内障手術で用いるAhmed緑内障インプラントを模した形状で内部が中空のデバイスをアクリス素材と3Dプリンターを用いて作製した。内部にフルオレセインナトリウム水溶液を注入してから乾燥させたものを家兎の強膜に固定して、デバイスの先端部の開放部を眼内に埋植した。定期的に前房水を採取してフルオレセインの放出を見た所、半年以上の徐放が確認できた。さらに現在、抗体医薬としてセツキシマブを用いて、同様に埋植後の徐放について解析中である。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調で、次年度は抗体の徐放プロファイルをみた後、家兎脈絡膜新生血管(滲出型AMD)モデルを用いて、徐放効果と治療効果を確認する予定である。
1)前房内抗体濃度とデバイス内の気体残量の測定、安全性の評価術後、定期的に前房水を採取し、ELISAにて抗体濃度を測定し、ガスの種類、内腔の形状での徐放プロファイルの違いを評価する。デバイス内のガス残存量に関して、CTスキャンにて、または、家兎を安楽死の上、デバイスを注意深く摘出して、測定する。また、移植部位を組織学的に評価する。2)家兎の脈絡膜新生血管モデルへのデバイスの効果判定6ヶ月、3ヶ月前に抗線維芽細胞増殖因子(bFGF)抗体を含有させたC3F8ガス封入中空デバイスを家兎眼に移植しておき、対照群は同時期に2.0 mgの抗体を硝子体内注射しておく。これらの家兎に対して、bFGF含浸酸性ゼラチンマイクロスフェア 500μgを毛様体扁平部よりマイクロピペットを挿入して網膜下に注入し、脈絡膜新生血管を惹起させる。術後4週目に、眼底写真の撮影、蛍光眼底造影で脈絡膜新生血管の活動性を評価し、安楽死後の摘出眼球を用いて脈絡膜新生血管を組織学的に定量化し、抗体徐放デバイス移植群と硝子体内注射施行群で比較する。
わずかな残金のみで次年度計画に影響しない
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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