研究課題/領域番号 |
19K09962
|
研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
池上 啓介 愛知医科大学, 医学部, 講師 (10709330)
|
研究分担者 |
増渕 悟 愛知医科大学, 医学部, 教授 (80362771)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 眼圧 / 眼房水 / 概日リズム / シュレム管 / 食作用 / ノルアドレナリン / グルココルチコイド / 毛様体 |
研究実績の概要 |
緑内障は、眼圧が上昇する事により、視神経が傷害され失明につながる難治性の疾患である。眼圧には約24時間の概日リズムがあり、概日時計中枢である脳視床下部の視交叉上核(SCN)によって制御されているが、その詳細な仕組みは不明なままであった。 1年目である2019年度では、マウスの副腎と上頚神経節の両方を外科的に除去したところ、恒暗条件下で眼圧リズムは夜間の上昇が抑制される形で消失し、点眼で回復したことから副腎グルココルチコイドと交感神経ノルアドレナリンの両方が概日制御因子であること発見した。 そこで、2年目の2020年度では、両因子による眼房水産生排出の分子制御機構を解明を目指した。眼房水産生鍵分子であるNa+K+ATPaseの阻害剤ウアバインの眼球内投与により、夜間のマウスの眼圧上昇が抑制された。また、野生型および毛様体特異的時計Bmal1欠損マウスともに夜間に毛様体Na+K+ATPaseが活性化された。さらに、ヒト由来毛様体無色素細胞への夜間の上昇するリズムを持つノルアドレナリンを添加したところNa+K+ATPaseが活性化されることも明らかにした。これらは交感神経を介した夜間の眼房水産生が毛様体時計とは独立して眼圧上昇に寄与していることを示唆する。 一方、眼房水排出責任部位である線維柱帯シュレム管では昼間の眼房水食作用が増進していることを、蛍光粒子の時刻依存的眼球内投与やビーズによる排出阻害で明らかにした。ヒト由来線維柱帯細胞で食作用をリアルタイムモニタリングした結果、ノルアドレナリンが食作用を顕著に抑制し、グルココルチコイド単独では影響を及ぼさないことを世界に先駆けて発見した。さらに薬理学的解析によりβ1アドレナリン受容体によるPKAおよびEPACの活性化が食作用を抑制する可能性を示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つある研究計画のうち1つ目の眼圧リズム制御経路の探索に関しては、研究開始当初は副腎グルココルチコイドと交感神経のどちらかが眼圧リズムを制御していることを想定していたが、研究実績の概要で記載した通り、両経路により制御されており、眼圧リズムの維持には少なくとも片方の経路が必要であることが判明し、2019年度に達成した。ただ予想に反して、毛様体時計と独立している可能性が分かったので、2020年度は、局所時計の操作ではなく、グルココルチコイドやノルアドレナリンによる直接的制御の可能性に基づき計画を進めた。 2つ目の眼圧概日リズムの制御分子の探索に関しては、眼房水産生排出リズムの検証は現在検証中である。しかし、眼圧リズムには夜間の眼房水産生と昼間の排出機構のバランスで成り立っていることを示唆するデータを得られつつある。2020年度では、毛様体時計とは独立した交感神経を介した夜間の眼房水産生が眼圧上昇に寄与していることを発見した。また、昼間の眼房水食作用増進が眼圧リズム形成に寄与していることを明らかにし、β1アドレナリン受容体が主に担っていることまで明らかにしている。現在、ヒト毛様体無色素上皮細胞とヒト由来不死化線維柱帯細胞におけるDexamethasoneおよびノルアドレナリン添加後の変動遺伝子およびシグナル伝達経路を次世代シーケンサーで解析中である。グルココルチコイドやノルアドレナリンの点眼投与によるマウス眼球の網羅的変動遺伝子と合わせて同定する予定である。 3つ目の眼圧概日リズム制御機構の検証は、現在遺伝学的手法および薬理学手法により解析中である。β1アドレナリン受容体阻害剤やPKAおよびEPAC阻害剤の時刻依存的な点眼により、主にEPACの活性化が食作用を抑制し夜間の眼圧を上昇させている可能性を明らかにした。したがって現在は、おおむね順調に計画は進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
眼房水排出機構ではβ1アドレナリン受容体を介したEPAC経路の重要性が分かったが、最終年度ではEPAC機構の下流の制御機構を明らかにする予定である。ノルアドレナリンはマクロファージなどでも食作用を抑制するが、その分子制御経路は良く分かっていない。そこで、食作用に関わるsmall GTPaseなどに着目し、RNA干渉法や薬理学的手法によりIn vitroおよびIn vivoで明らかにする。また、排出機構におけるグルココルチコイドの寄与に関してもNEの相互作用の点から突き詰める。 一方、眼房水産生機構ではノルアドレナリンやグルココルチコイドによる転写を介さない急性期反応をNa+やK+イオンのin vitroモニタリングにより明らかにし、網羅的遺伝子発現解析の結果をもとに、鍵遺伝子およびシグナル電圧経路を同定してゲノミックな眼房水産生機構を検索する。 さらに、in situ ハイブリダイゼーション法や免疫組織化学法およびウェスタンブロット法により明期暗期における眼圧制御部位における上記同定遺伝子・タンパク質発現の部位と日内変動を同定する。また、同定遺伝子の変異マウスを導入またはCRISPR/Cas9法やアデノ随伴ウイルスAAVを用いて眼房水関連部位特異的に遺伝子改変したマウスを作製し眼圧を経時的に測定することで眼圧概日リズムへの影響を解析する。さらに、緑内障モデルマウスを用いて4次元レベルでの眼房水産生排出機構の全容を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
リアルタイムレポーターアッセイ装置を自作で作成するための費用を申請時に計画していたが、当初の予定よりも交付額が低かったため、当初の計画通り高額な機器は中古で購入または譲渡していただくことで代用し、作成したため使用額が予定よりも低かった。2019年度、の余剰額は2019年度および2020年度に予定していた研究計画2つ目の眼圧リズムの鍵遺伝子の同定においてより詳細に解析するための分子生物学や生化学、組織学手法に用いる試薬の購入に充て、得られた結果のエビデンスを追加するとともに、科学のさらな前進に貢献できるようにする。
|
備考 |
その他、上記プレスリリースを下記の2か所で取り上げられた。 【医療NEWS】http://www.qlifepro.com/news/20200327/glaucoma-2.html 【月刊OPTRONICS】http://www.optronics-media.com/news/20200327/63697/
|