研究課題
研究代表者らは、これまでに、細胞間接着分子のネクチン-1が、マウス嗅球の外網状層において、スポット状の新規細胞接着装置構造(ネクチン-1スポットと命名)を構成することを世界に先駆けて報告した。ネクチン-1スポットは、嗅球の外網状層では、同種の神経細胞である僧帽細胞の側方樹状突起同士を接着していた。さらに、嗅球の糸球体内では、単一の僧帽細胞の一次樹状突起が数回枝分かれするが、これらの分岐した枝同士の間をネクチン-1スポットが接着していた。したがって、ネクチン-1スポットは、自己細胞間接着機能に関与することが示唆された。これまでの研究で、この自己細胞間接着の機能的意義を解明するために、ネクチン-1スポットを網膜においても探索し、外網状層(OPL)で、type 4 OFF Cone Bipolar Cells の樹状突起の間にも見出している(未発表)。本研究では、網膜のOPLのシナプス微細構造の比較解析を行い、網膜OPLの神経回路形成において、ネクチン-1スポットの役割を明らかにすることを目的としている。これまでに、ゼブラフィッシュ眼球の初期発生過程を解析するシステムを立ち上げた。まず、正常セブラフィッシュにおけるネクチン-1スポットの発現が発生段階によってどのように変化するかを蛍光免疫染色法や超解像顕微鏡法、透過電顕法、免疫電顕法などを駆使して解析する。次に、CRISPR/Cas9のゲノム編集法技術を応用し、ネクチン-1ノックアウトセブラフィッシュの表現型を解析する。これまでに、ノックアウトセブラフィッシュの作製には成功したが、ネクチン-1抗体に関しては、まだ、解析に耐えうる抗体の取得には至っていない。
2: おおむね順調に進展している
正常のセブラフィッシュにおけるネクチン-1スポットの発生段階による、同遺伝子のノックアウトの表現型を解析していくためには、特異性が高く、組織染色に使用可能なネクチン-1抗体が必須といっても過言ではない。抗体作製を複数回試みるも、セブラフィッシュのネクチン-1a、1b、2種類のアイソフォームを特異的に認識する抗体は得られなかった。しかしながら、今年度も作製に失敗する可能性も考え、マウスの網膜の発達期におけるネクチン-1局在の解析も始めていた、概ね順調に進展している。
研究代表者らのグループは、これまでに、CRISPR/Cas9のゲノム編集法を活用し、ネクチン-1ノックアウトセブラフィッシュの作製に成功した。セブラフィッシュのネクチン-1を特異的に認識する抗体についても、抗原を変えたり、抗体作製を依頼する会社を複数にしてみたりして、作製を挑戦し続ける。しかしながら、今年度も作製に失敗する可能性も考え、マウスの網膜の発達期におけるネクチン-1局在の解析も始めている。現在、免疫組織染色によりネクチン-1の成体マウス網膜内局在を確認したところ、ネクチン-1はOLM(外境界膜)、OPL、IPL(内網状層)の亜層構造S4、S5層に発現することを確認した。また、OPLにおけるネクチン-1は、GluA1と共局在することを見出した。さらに、免疫電顕によりネクチン-1はOFF-双極細胞の姉妹樹状突起の間に存在し、ホモトランスダイマーを形成していることを確認している。つまり、本年度は、解析動物をゼブラフィッシュだけでなくマウスも用いて、ネクチン-1の細胞内局在明らかにする予定でいる。
当初の計画では、正常セブラフィッシュにおけるネクチン-1スポットの発現が発生段階によってどのように変化するかを蛍光免疫染色法や超解像顕微鏡法、透過電顕法、免疫電顕法などを駆使して解明する予定でいた。しかし、抗体作製は当初の計画とは異なり、困難を極めている。上記の抗体作成もアプローチを変えながら続行するが、抗体作製そのものが難しいタンパク質である可能性も十分に想定しておく必要がある。そのため、マウスの網膜を用いて解析するという別のアプローチも試みており、現在のところ、順調に進行し始めている。このように複数の実験を同時併行で実行することで当初の研究目的を遂行しうるものと考えている。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: 1-11
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Nature Communications
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