研究実績の概要 |
次世代型シーケンサーを用いて無虹彩と小脳性運動失調を特徴とするGillespie syndrome (GLSP)患者5名にinositol 1,4,5-triphosphate receptor type I (ITPR1) 遺伝子の57-59番目のエキソンに変異ホットスポットを同定した。ITPR1は脊髄小脳失調症の責任遺伝子として知られているが、「なぜGLSP患者だけで無虹彩が発症するのか?」は不明であった。 Itpr1のC-末端にV5タグを付加したマウスを作製し、Itpr1の局在を視覚化すると、神経堤細胞 (NCC) に由来する虹彩や角膜内皮・ストロマに局在が確認された。報告者はItpr1の3’-末端側にNCC特異的な転写開始点 (TSS) が存在すると予想した。RNA-seqによりエキソン57の直前に眼特異的新規TSSを同定し、ここから218アミノ酸残基の眼特異的アイソフォームが発現していることを明らかにした。 ゲノム編集で作製したエキソン62に7 bpの欠失をもつマウスは運動失調に加え、無虹彩を再現した。組織学的観察からItpr1欠失によるNCC由来組織の分化異常が、無虹彩の原因であることが判明した。 最後に「なぜItpr1の変異が分化異常を引き起こすか?」を明らかにするために、ドキシサイクリン依存的に野生型もしくは変異型の218アミノ酸残基のアイソフォームを発現する細胞株を樹立した。野生型はアクチン繊維に結合し、その方向と張力を調節して、転写共役因子Yapの核内移行を促進した、一方変異型ではその機能が弱かった。GLSPにおける無虹彩の発症機序は、眼特異的Itpr1アイソフォームによるアクチン繊維を介した転写調節異常が原因と結論づけた。 空間トランスクリプトームによる遺伝子発現の定量化に基づき、眼の発生を明らかにすることが今後の目標である。
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