本研究ではヒヨコを用いて正常および実験近視眼の非血管性平滑筋細胞(NVSMCs)とリンパ管様構造(lacunae)の構造を解析した。ヒヨコの脈絡膜組織は4%パラホルムアルデヒドまたはHalf-Karnovsky溶液で固定され、α-smooth muscle actin、PROX-1、podoplaninを用いて染色された。PROX-1とpodoplaninの染色ではlacunaeに明瞭な染色は見られなかった。近視を誘導したヒヨコでは、2週間後に同様の固定と染色を行い、さらに電顕(FIB/SEM)によるNVSMCsの三次元的微細構造解析を実施した。分析の結果、対象眼と実験近視眼間で細胞配列や細胞間接合に明らかな差異は見られなかったが、近視眼ではlacunae構造の拡大が確認された。この研究により、NVSMCsとlacunaeの構造変化が近視発生のメカニズムに関与している可能性が示唆された。 FIB/SEMを用いたヒト水晶体嚢の微細構造の解析も行った。50例50眼(80歳以上の高齢群25眼、65歳以下の若年群25眼)を対象とし、前嚢を採取し、電顕用にエポン包埋し、走査電子顕微鏡にて反射電子像を観察した。若年群の水晶体嚢の多くは均一な構造を呈していたが、高齢群では80%に層構造を呈しており、13眼では前嚢断端に層構造の離開が見られた。前嚢には加齢に伴い、層構造が出現し、水晶体嚢の脆弱性をもたらすと考えた。同様の方法で、眼内レンズが嚢内固定された状態で脱臼を生じた14例から眼内レンズ-水晶体嚢複合体を電顕用にエポン包埋したのち、観察した。落屑症候群を有する症例ではZinn小帯の断裂が、zonular lamellaの剥離は硝子体手術後の症例に、有意に関連していた。眼内レンズ脱臼のメカニズムには背景となる疾患により、水晶体嚢の構造変化が異なることが示唆された。
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