研究課題
顔面神経麻痺は突然健常者にも発生し、罹患者のQOLを著しく損なう。健側顔面神経と麻痺側顔面神経分枝に自家神経移植を行うCross face nerve graft(CFNG)は顔面神経麻痺の再建術式としてすでに確立されている。しかしながら同術式は患側神経再支配までに6ヶ月以上を要し、移植神経内での軸索伸長速度が低い症例では表情筋の萎縮により満足な結果が得られない。今回我々は脂肪由来幹細胞(ASCs)シートで被覆した自家神経によるCFNGを行い、その軸索伸長速度、神経成熟度促進効果を検討した。8週齢ルイス系ラットの顔面神経本幹を切離した顔面神経完全麻痺モデルを使用し、坐骨神経を用いたCFNGを施行した群(CFNG群;n=6)、CFNGの移植神経周囲にASCs細胞懸濁液を散布した群(懸濁液群;n=6)、移植神経をASCsシートで被覆した群(シート群;n=6)を作成した。術後13週での神経再生を組織学的、生理学的に比較検討した。顔面神経スコアリングではシート群が他の2群と比較して有意に短時間での回復を認めた。また誘発筋電図におけるAmplitudeはシート群がもっとも高く、3群間すべてに有意差を認めた(P<0.05)。ミエリン数はシート群が他の2群に比較し有意に多かった(P<0.05)。ASCsシートを組み合わせたCFNGは軸索伸長を促進し、神経再支配までの期間を短縮した。同法は臨床におけるCFNGの治療効果を改善する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
当施設では動物実験設備が非常に充実しており、実験動物の術中死等の問題がほとんど発生しないため。
今回のラットモデルで行った間葉系幹細胞を用いた顔面神経再建手技をベースに大動物実験へ移行する。
(理由)ラットの中に神経再生を認めることができなかった個体が存在し、移植実験計画に数週間のずれが生じてしまった。このため採取した再生神経の検体を電子顕微鏡解析へ外注依頼する日程も同様に数週間のずれが生じたため次年度使用額が発生する結果となった。(使用計画)遅延した検体の外注依頼を令和2年度中に提出する。
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