研究課題
顔面神経不全麻痺に対する治療材料となるハイブリッド型人工神経には、すでに臨床使用されている生体吸収性人工神経が必要となる。そして、そのベースとなる生体吸収性人工神経は、本邦においては先発品「ナーブリッジ」と後発品「リナーブ」の二択となる。本年度はリナーブの顔面神経再生効果を評価し、ナーブリッジとの再生能力の違いを検討した。リナーブは外筒がブタI型アテロコラーゲン、内腔がコラーゲンの繊維束で構成され、2016年から本邦で臨床使用されている生体分解性人工神経誘導管である。リナーブは主に臨床の場で知覚神経損傷に使用され、欠損の長さが30mm以内であれば良好な治療成績が得られると報告されているが、同人工神経を用いた顔面神経領域での臨床、基礎研究の報告は未だ少ない。今回われわれはラットの顔面神経頬筋枝欠損モデルにリナーブを移植し、顔面神経再生機能の評価、及び自家組織移植との組織学的、生理学的比較検討を行った。吸入麻酔下にルイス系ラットの左顔面神経頬筋枝を露出して7 mmの神経欠損を作成した。次に神経欠損部位に長さ1 cmのリナーブを顕微鏡下に架橋し、術後13週におけるトルイジンブルー染色、電子顕微鏡画像を用いた自家神経移植群との組織学的比較検討、及び複合誘発筋電図(CMAP)を用いた生理学的比較検討を行った。再生神経中央部での平均神経線維直径は自家神経移植群(4.8 ± 1.9 μm)、リナーブ群(3.8 ± 1.4 μm)で群間に有意差を認めた。ミエリンの厚さでは自家神経移植群(0.6 ± 0.3 μm)、リナーブ群(0.4 ± 0.1 μm)で群間に有意差を認めた。またCMAPの振幅は、自家神経移植群(2.8±1.4 mV)、リナーブ群(1.3±0.5 mV)で群間に有意差を認めた。本実験ではラットモデルにおいてリナーブが顔面神経欠損の神経再建に適用可能であることが実証できた。
2: おおむね順調に進展している
当施設では動物実験設備が非常に充実しており、実験動物の術中死等の問題がほとんど発生しないため。
羊を用いた大動物実験モデルの確立を目指す。
(理由)ラットの中に神経再生を認めることができなかった個体が存在し、移植実験計画に数週間のずれが生じてしまった。このため採取した再生神経の検体を電子顕微鏡解析へ外注依頼する日程も同様に数週間のずれが生じたため次年度使用額が発生する結果となった。(使用計画)遅延した検体の外注依頼を令和4年度中に提出する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)
Regenerative Therapy
巻: 18 ページ: 302-308
10.1016/j.reth.2021.08.006