顔面神経麻痺は突然健常者にも発生し、罹患者のQOLを著しく損なう。健側顔面神経と麻痺側顔面神経分枝に自家神経移植を行うCross face nerve graft(CFNG)は顔面神経麻痺の再建術式としてすでに確立されている。しかしながら同術式は患側神経再支配までに6ヶ月以上を要し、移植神経内での軸索伸長速度が低い症例では表情筋の萎縮により満足な結果が得られない。我々は以前ラットを用いたCFNGモデルを確立し、さらに脂肪幹細胞シートがCFNGの効果を促進することを報告した。そして今回過去のラットを用いた小動物実験から、より臨床に近い大動物実験へ移行するために羊の顔面神経周囲の解剖、及び自家神経移植のドナー部となる腓腹神経周囲の解剖を徹底的に解明した。羊顔面神経本幹とその分岐する上行枝、頬筋枝、下顎縁枝のミエリン数は各々11350±1851、4766±1000、5107±218、3159±450で、顔面神経本幹の直径は2.8±0.8mmであった。また全身麻酔下に電気刺激を行い、各分枝の支配筋の局在を確認した。これらの神経走行の解剖学的位置、サイズ、神経軸索数はすべて人間のそれと非常に類似していた。羊の後脚外側縁の切開により約30cmの腓腹神経がドナー神経として採取できることを証明した。さらに経時的な顔面神経麻痺評価のためにCMAPの測定方法も確立した。顔面神経頬筋枝は①眼窩外縁と下顎角を直線で引いた中点と、②最後方の後臼歯の部位、の2点を結んだ直線下に走行し、この直線上に配置した刺激電極により鼻唇挙筋の活動電位の測定が可能であった。
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