研究課題/領域番号 |
19K10019
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
高田 弘弥 日本医科大学, 医学部, 准教授 (30824833)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / ATP-Ca2+シグナリング / 振動圧刺激 / ヒト喉頭癌細胞 / K+チャネル開口 |
研究実績の概要 |
空気と食物の通過路である頭頸部領域の粘膜上皮細胞は、発声や摂食によって繰り返して機械刺激が負荷されると、細胞膜や細胞骨格が変形(伸展、振動、圧縮)してその内部にメカニカルストレスが生じる。このストレスは細胞膜や細胞骨格(および連結する接着装置)に分布する様々なメカノセンサーに感知されたのち、対応する化学信号に変換され、さらに細胞内シグナル伝達系を介して細胞の分裂・分化・運動など種々の細胞機能を調節する。これら調節機構が破たんすると制御不能な細胞増殖を引き起こし、頭頸部疾患の病態に影響していると考えられる。このため、メカニカルストレスに起因する頭頸部疾患における病態形成 の機序を解明することは重要な課題とされてきた。しかしながら、頭頸部疾患の病態形成に関与するメカニカルストレスの感知機構についてはほとんどが未解明のままである。 本研究では、ヒト喉頭癌細胞(Hep2 or KB)に対する頭頸部運動を模した振動圧刺激の感知機構を明らかにし、がんを含む頭頸部疾患に対する新たな治療戦略への応用を模索することに学術的な意義がある。頭頸部領域におけるメカノストレスの影響を明らかにするために、われわれが独自に開発した非接触で超音波圧刺激を照射できるデバイスを用いて、頭頸部運動を模した気流・振動を再現し、ヒト口腔粘膜・ヒト咽頭粘膜由来の上皮細胞に照射した際のメカノストレス応答としてATP-Ca2+シグナリングに注目した。 本研究の目的は、異なる振動周波数や照射強度のメカノストレス応答の解析からメカニズムの全容解明に迫り、メカニカルストレスを応用した治療の可能性も模索し、より効率的で簡便な新規治療の確立を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上皮粘膜に対する機械刺激が喉頭疾患の病態形成に影響するかを調べたところ、想定外の作用機構が考えられた。 上皮粘膜細胞やKB細胞を用いて、声帯・気道振動を模した超音波刺激(250 or 1000 Hz, 30 min)を負荷し、網羅的遺伝子発現解析を行った。1000 Hzの過度な声帯・気道振動はがん関連遺伝子の発現増加を導いた一方、通常の会話における250 Hzの振動では気道粘膜上皮のバリア機構に関わるK+チャネルの発現増加が認められた。 気流・振動を模した刺激では、Ca2+透過性よりもK+チャネル開口が大きく寄与する可能性が見出され、現在、検証を続けているため、一過性の細胞内Ca2+濃度上昇に関して実験デザインおよび再現性確認に多くの時間を要し、細胞内Ca2+濃度変化あるいはK+チャネル開口などのメカニズムについての検討は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
上皮粘膜細胞や上皮喉頭癌細胞に対する1 Hz振動圧刺激や1秒間の伸展刺激(一方向に20%)によってCa2+応答よりも細胞外K+放出という現象の再現性確認を行う。 次に、その薬理学的な阻害を検討する。K+チャネル阻害剤を添加した時の影響を観察する。同時にK+チャネルが炎症発症に関与すると予想し、リアルタイムイメージング観察を行い、以下について検証する。 1)がん細胞を活性化する過剰な振動圧刺激の条件(振動周波数・照射圧強度・照射時間など)のスクリーニング 2)それを抑制する作用機序を検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
予想していたATP-Ca2+メカニズムと異なる作用機構が観察されたため、再現性実験を主に繰り返し、ATP-Ca2+シグナリング阻害剤による実験がやや遅れたため。 エキスパートによる指導に関する予定(謝金使用)がコロナ感染拡大防止などの状況で都合立たず、次年度へ延期となったため。
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