研究課題/領域番号 |
19K10020
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
磯貝 典孝 近畿大学, 医学部, 教授 (90203067)
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研究分担者 |
諸富 公昭 近畿大学, 医学部, 准教授 (10388580)
楠原 廣久 近畿大学, 医学部, 講師 (50388550)
和田 仁孝 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10460883)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Cartilage / ethanol treatment / tissue engineering |
研究実績の概要 |
2019年度は、PGAナノファイバーにおける播種細胞の分布、接着能、および生存率の評価を行った。実験では、ヒト耳介軟骨組織を使用し、培養開始後 7 日目におけるnanoPGA 群とPGA 群のポリマー性状およびポリマー内部の細胞分布を鏡検にて評価した。 その結果、倒立顕微鏡による観察では、nanoPGA 群では薄いポリマーの両面に播種細胞が集積し、細胞質の好塩基性は強く染色されていた。ポリマー内部への細胞浸潤像は認められなかった。一方、PGA 群では、播種細胞がポリマー繊維束の周辺に散在して観察され、ポリマー間の空隙に細胞成分は認められなかった。偏光顕微鏡による観察では、nanoPGA 群には薄く密なナノファイバー構造が観察された。一方、PGA 群では、厚いポリマー内部に散在するポリマーが観察された。これらの結果より、(1)nanoPGA 群の細胞分布は、ポリマーの外部に高い細胞密度で集積する、(2)ポリマー内部における細胞密度は、 nanoPGA群 および PGA 群の両群において低いことが判明した。 次に培養期間中の総播種細胞数に対する生細胞数の割合を検討した。その結果、培養1日目における生存率は nanoPGA 群で約 39%、PGA群で約 17% であり、nanoPGA 群で有意に高値であった (P = 4.893 x 10-5 )。 その後の培養経過において、両群ともに生細胞数は急速に増加し、培養 3 日目にプラトーに達した。培養経過中の生存率はnanoPGA 群において有意に高く、培養 5 日目のnanoPGA 群における生存率は、PGA 群に比較して、約 1.5 倍高い値を示した (P = 0.02)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、ナノファイバー化 PGA の足場材料における播種細胞の分布および生存率について検討した。生分解性足場材料として、PGA 、PLLA 、PCL が広く知られている。特に PGA は、高い細胞接着性と早い分解・吸収性によって優れた生体適合性を有している。このため、小動物を用いた三次元組織の再生誘導実験において、理想的な支持体として応用されてきた。しかし、ポリエステル系の生体内分解性合成高分子である PGA は分解の過程でグリコール酸を放出するため、PGA 使用量が多い場合は局所の pH 上昇によって炎症が惹起され、過度の炎症は再生遅延や組織破壊を引き起こすことが報告されている。一方、ナノファイバー化された PGA では空隙率 (単位体積あたりに繊維が占める割合) が 90% 以上であり、PGA 重量は少ない。また、極細化により足場材料の生体吸収時間は短縮され、局所的炎症が生じにくいことが報告されている。さらにナノファイバーは、細胞外マトリックスに類似したサイズと構造を有するため、軟骨細胞の増殖・分化過程に促進的に作用しうる可能性が報告されている。ナノファイバー上に播種された細胞は三次元的ではなく二次元的、すなわち線維の配列に沿って増殖し、分化した軟骨細胞ではプロテオグリカン合成が盛んとなり細胞質が好塩基性に強く染色された。この結果より、播種された軟骨細胞はnanoPGA 環境を有する足場で増殖・分化していることが示唆され、本研究は順調に進行した。
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今後の研究の推進方策 |
一般に、細胞は適度な疎水性表面に付着しやすく、親水性表面には付着しない性質を持っている。また、ポリマーは疎水性物質であることが広く知られている。しかし、細胞が人工材料に播種された場合、細胞が材料表面に直接接着することはなく、材料表面に吸着するフィブロネクチンやコラーゲンなどの細胞接着性たんぱく質を介して細胞接着すると考えられている。この細胞接着性たんぱく質が人工材料に付着するためには、人工材料表面が親水性である必要がある。細胞と材料表面との間に形成される接着性タンパク質 (バイオインターフェイス) に関する研究は、再生医療に必須な基盤技術と考えられる。 疎水性ポリマー材料の表面に親水性を付与する表面改質の手法として、OH 基をもち、水との親和性が高いエタノール浸漬処理を行ってポリマー材料の疎水性表面を親水性に変えることが知られている。今後の研究では、細胞接着を高めるため、複合型吸収性ナノファイバーの材料表面をエタノール処理にて親水化し、ヒト耳介軟骨細胞を播種した後にヌードマウス皮下に移植し、耳介形状軟骨の再生誘導を行う。今回の実験より、複合型吸収性ナノファイバー足場の表面改質が3次元耳介形状軟骨の基質産生および長期形状維持に及ぼす影響について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度の研究では、PGAナノファイバーにおける播種細胞の分布、接着能、および生存率の評価を行った。実験では、ヒト耳介軟骨組織を使用し、培養開始後 7 日目におけるnanoPGA 群とPGA 群のポリマー性状およびポリマー内部の細胞分布を鏡検にて評価した。当初の研究において予見しえなかった本年度の若干の症例数の減少により、ヒト耳介軟骨組織を使用した組織の採取量とその後の培養数が少なくなった。そのため、予定研究費が43738円が残存し、年度内の使用完了が困難となった。 (使用計画)生じた残額は、来年度に繰り越し、来年度の研究を加速して使用する予定としている。
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