研究課題/領域番号 |
19K10020
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
磯貝 典孝 近畿大学, 医学部, 教授 (90203067)
|
研究分担者 |
諸富 公昭 近畿大学, 医学部, 准教授 (10388580)
楠原 廣久 近畿大学, 医学部, 講師 (50388550)
和田 仁孝 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (10460883)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | Cartilage / ethanol treatment / tissue engineering |
研究実績の概要 |
2020年度は、複合型吸収性スカフォールドの表面改質が軟骨基質の産生に及ぼす影響について検討した。実験では、エタノール処置した複合型吸収性スカフォールド(エタノール処置群)とエタノール処置を行っていないスカフォールド (コントロール群) にヒトたち耳より単離した軟骨細胞を播種し、無胸腺マウスの背部皮下に移植した。移植後 10 週に標本採取し、複合型吸収性スカフォールドの表面改質が軟骨基質の産生および軟骨被覆率に及ぼす影響について、肉眼所見、組織所見、遺伝子発現の見地から検討した。まず肉眼所見および組織学的検討を行った。エタノール処理群ではスカフォールドの表面は白色光沢を帯びた軟骨組織で覆われていた 。一方、コントロール群では、スカフォールドが薄い結合組織に覆われ、軟骨再生はスカフォールドの一部に限局して観察された。組織学的には、エタノール処理群では nanoPGA 領域に一致して再生軟骨が観察された。コントロール群における軟骨形成はスカフォールド表面部に限局的に認められたが、全体的に不良であった。次に定量的 RT-PCR 法により、再生組織における軟骨関連遺伝子 (Type II collagen、Elastin、SOX 5) およびアポトーシス・炎症関連遺伝子 (Caspase 8、Caspase9、IL-1α) の発現を解析した。その結果、エタノール処理による表面改質により全ての軟骨関連遺伝子発現は亢進する傾向を示した。特に、エタノール処理により有意に高い SOX 5 の遺伝子発現が認められた。アポトーシス関連遺伝子の発現に変化は認められなかったが、炎症関連遺伝子である IL-1α の発現はエタノール処理により有意に低下した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、複合型吸収性スカフォールドの表面改質が軟骨基質の産生に及ぼす影響について検討する目的で、エタノール処置群とコントロール群における軟骨関連遺伝子およびアポトーシス関連遺伝子の発現を比較検討した。一般に軟骨組織は、機械的刺激(伸張刺激と圧迫刺激)を受けている。伸張刺激に対しては、軟骨外基質の中でII型コラーゲンが、また、圧迫刺激に対してはアグリカンが深く関与して軟骨構造を維持すると考えられている。この軟骨外基質の維持は、基質再生と基質分解のバランスに影響され、軟骨細胞代謝に関与するさまざまな転写因子が重要な役割を担っている。SOX 系転写因子は、間葉系幹細胞から軟骨細胞に至る分化制御において重要な働きをしており、本研究では、親水化した複合型吸収性スカフォールドの移植後 10 週目においてSOX 5 発現が有意に亢進していた。 一方、細胞外基質が欠如した場合、軟骨細胞の生存・分化は阻害され、アポトーシスによる細胞死が示唆されている。エタノール処理群ではアポトーシスに関する発現 (Caspase 8 および 9) に変化は認められなかったが、炎症に関する発現 (IL-1α) は有意に低下していた。IL-1α は、炎症性サイトカインとして知られ、血管内皮細胞やマクロファージなどを活性化し、メタロプロテアーゼ (MMP) やコラゲナーゼなどの細胞外基質の分解酵素発現を促進し、軟骨破壊に関与することが明らかとなっている。本研究では、親水化した複合型吸収性スカフォールドの移植後 10 週目において、IL-1α 発現が有意に低下していた。これらの結果より、 三次元足場の表面改質によって軟骨基質産生が良好に進んだ可能性が示唆され、本研究は順調に進行した。
|
今後の研究の推進方策 |
軟骨再生誘導においては、(1) 播種細胞の種類および細胞密度、(2) 軟骨細胞増殖や基質産生を誘導するするサイトカイン、(3) 細胞の分化増殖に必要な微小環境あるいは 3 次元形状を付与する足場材料 (スキャホールド) の性状・力学的強度・組織親和性などの諸問題を解決せねばならない。これまで我々は、ナノファイバー化した生分解性ポリマー polyglycolic acid (PGA) を、生体親和性と力学的強度を兼ね備えた非分解性ポリマーであるプロリンと組み合わせて、ヒト耳介形状を有する複合型非吸収性スカフォールドとして用い、軟骨再生を試みてきた。その結果、播種軟骨細胞の接着効率は著しく向上し、大動物 (イヌ) を用いた自家移植モデルにおいて良好な軟骨再生を示しえた。しかしながら、プロリンでは正常耳介が持つ複雑な三次元形状・薄さ・しなやかさを長期間維持することは不可能であり、これらが臨床応用していく上での目下の問題点となっている。そこで本研究では、Tissue engineering における 3 要素の中、特にスカフォールドの改良に焦点を絞ることとした。長期間三次元形状を維持するため、充分な剛性を持つpoly-ε-caprolactone (PCL) を使用し、耳介形状 PCL 表面をナノファイバー化したPGA nanoPGA) で被覆し、複合型吸収性スカフォールド (nanoPGA / PCL) を作製した。この新規耳介形状足場における細胞接着性を高めるため、スカフォールドの疎水化表面を親水化し、その有効性を検討した。本年度の研究結果より、複合型吸収性スカフォールドの表面性状をエタノール処理にて表面改質する事で、軟骨基質の産生が促進することが遺伝子レベルで判明した。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究では、複合型吸収性スカフォールドの表面改質が軟骨基質の産生に及ぼす影響について検討する目的で、エタノール処置群とコントロール群における軟骨関連遺伝子およびアポトーシス関連遺伝子の発現を比較検討した。当初の研究計画において予見しえなかった症例数の減少により、ヒト耳介軟骨組織を使用した本実験計画を若干変更し、埋植数が減少した。そのため、予定研究費134089円が残存し、本年度内の使用完了が困難となった。 (使用計画)生じた残額は、来年度に繰り越し、来年度の研究を加速して使用する予定としている。
|