研究実績の概要 |
顕微鏡下微少血管吻合を行う血管柄付き遊離組織移植に比べ,脂肪吸引・注入移植術(遊離脂肪注入術)は簡便であるが,移植量が多いとその多くは壊死・吸収されてしまうという問題点がある。本研究は、遊離脂肪注入術での移植床の組織内圧と移植脂肪生着の関係について明らかにすることを目的した。これにより,至適な移植床の組織環境が明らかになり,術前に至適な移植床の準備(graft bed preparation)が可能となることで、生着率の向上と移植量の増大が期待できる。皮下脂肪組織からは複数種類の細胞群を採取できる。なかでも、コラゲナーゼ処理の後、遠心分離を行い沈殿分画から得られる脂肪組織由来幹細胞は血管新生能、組織修復能、多分化能など多彩な性質を発揮することができる。遊離脂肪移植時に移植された脂肪組織由来幹細胞は周囲環境と密接な相互作用を行うことが知られている。これは脂肪組織由来幹細胞は周囲環境の影響を受けるのみならず、周囲環境に積極的に働きかけることで移植細胞生着と周囲環境改善を図ることを意味している。そして、間葉系細胞の分化において脂肪と骨は極めて近接した位置にあり、分化の最終段階でようやく分かれることが知られている。脂肪組織由来幹細胞が骨分化もしうることを我々は明らかにした。骨分化において機械的刺激を細胞内シグナルに変換するメカノトランスダクションが重要であることが知られている。我々は脂肪移植時の脂肪分化においてもメカノトランスダクションが関与していると考えた。メカノトランスダクションの影響を強く受ける、TGFbeta1、IGF, RUNX2, OCN等の遺伝子についてその発現ポテンシャルのエピジェネティクス解析を行い、細胞分離時の組織比重によって差がみられることを明らかにした。今後、これらの差が脂肪移植に与える影響を検討する。
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