研究課題/領域番号 |
19K10039
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
舩橋 誠 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (80221555)
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研究分担者 |
久留 和成 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (00592081) [辞退]
平井 喜幸 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (40344519)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 悪心 / 嘔吐 / 最後野 / 孤束核 / 迷走神経 / 条件付け味覚嫌悪 / ラット |
研究実績の概要 |
2019年度の研究実績の概要について,実施した研究計画,結果,考察,新たな問題点について下記に述べる. ラットを用いた実験において甘味摂取直後に催吐物質を腹腔内注射すると,甘味(条件刺激)と悪心(無条件刺激)との連合学習が成立して甘味摂取を忌避するようになる.これを条件付け味覚嫌悪(CTA:conditioned taste aversion)と呼び,本研究ではこれを薬物投与による悪心誘発の指標として用いた.催吐性のある薬物としてシスプラチン(抗がん剤),エメチン(吐根の成分),トラネキサム酸を比較した.こららの薬物をコントロール群のラットに投与すると,著明なCTAの獲得を認めた.実験群として最後野切除群,迷走神経求心路切除群,最後野と迷走神経求心路の両方切除群を作成し,シスプラチン,エメチン,トラネキサム酸の腹腔投与を無条件刺激にした場合のCAT獲得を調べたところ,迷走神経求心路切除群はエメチン投与によってCTAを獲得したが,最後野切除群においてはエメチン投与によるCTA獲得は抑制された.この結果はエメチン誘発の悪心が最後野を介して惹起されることを示唆するものであった.シスプラチンについては,最後野切除群,迷走神経求心路切除群,最後野と迷走神経求心路の両方切除群のいずれにおいてもCTAの獲得を認めたため,エメチンとは異なり迷走神経や最後野を介さない経路が悪心誘発に関与していることが示唆された.また,トラネキサム酸の腹腔投与による悪心誘発は迷走神経求心路切除群で条件付けテスト日2日目におけるCTA獲得が抑制され,最後野切除群においては条件付けテスト日1日目からCTA獲得が強く抑制されたことから,迷走神経求心路と最後野の両方を介して悪心が誘発されていることが示唆された.橋と延髄より上位脳における悪心誘発機序を考慮することが全貌解明に必要であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種催吐物質を腹腔内投与することによるCTA獲得について着実に実験を行っており,進捗状況は概ね予定通りである.得られたデータから,薬物によって嘔吐誘発機序に違いがあることが明らかになりつつあり,それらをまとめて国際学会で成果発表を行っており,順調な進捗状況であると判定した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果から,催吐性のある薬物や抗がん剤の副作用により起こる悪心の誘発はどれもが同じ神経経路や脳部位の活動を基盤としているわけでは無いことが判明した.特に,抗がん剤であるシスプラチン誘発の悪心は,最後野と迷走神経求心路のダブル切除を施しても依然として生じることから,脳幹部より上位の脳部位を介して生じている可能性が示唆された.ヒトの抗がん剤治療においては,制吐剤としてNK1受容体阻害薬,セロトニン3型受容体阻害薬および相当量のステロイドホルモンを同時投与することが通法となっており,ステロイドホルモンの同時投与は確実な制吐作用を得るために必須であるとされている.そこで,今後の研究において,デキサメタゾンの効果について検討する方針である.デキサメタゾンの標的を探索するために,パッチクランプ法を用いて最後野,孤束核およびその他の脳部位のニューロン活動への影響を調べることを考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品について経費節減と有効利用に努めたことと,使用した実験動物(ラット)が予定よりも少ない数でデータを得ることができたため.
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