研究課題
副甲状腺ホルモン(PTH)ならびに副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の間歇投与は、前骨芽細胞の細胞増殖と骨芽細胞の骨形成を促進する。骨組織におけるPTH受容体の発現は骨芽細胞系細胞および血管内皮細胞に認められること、また、骨組織に豊富に分布するCD31陽性/endomucin陽性骨特異的血管は、骨芽細胞活性化や骨形成に寄与する可能性が報告されている。これらの先行研究を踏まえ、本研究ではPTH/PTHrPの骨特異的血管や血管周囲に存在する細胞群への作用、および、骨特異的血管と骨芽細胞系細胞・血管周囲細胞群との相互作用を明らかにすることを目的とし、PTH間歇投与マウスの長管骨を用いた組織学的・微細構造学的解析を遂行した。2019年度の解析では、PTH間歇投与により長管骨海綿骨周囲の骨髄腔におけるendomucin陽性骨特異的血管の数と管腔径を有意に増加させること、また、血管周囲にALP陽性/αSMA陽性細胞を増加させることを明らかにした。さらに、2020年度の解析で血管周囲に増加したALP陽性/αSMA陽性細胞による血管連関について着目したところ、これら細胞は骨芽細胞と同様にPTH受容体やVEGF、Flk-1などを発現し骨特異的血管数の増加に寄与している可能性、また、一部は血管内皮細胞や骨芽細胞系細胞へ分化する可能性が推測された。さらに、PTH間歇投与マウス長管骨の皮質骨に着目したところ、高用量・高頻度PTH投与マウスの皮質骨では、骨幹端側から骨幹側に向かって経時的に皮質骨の多孔化(皮質骨の海綿骨様変化)が進行していた。同部位では、多孔化に先立ちまず皮質骨骨内膜側表面に骨特異的血管が近接し、これら血管が破骨細胞と共に骨芽細胞層を貫き皮質骨内部へと侵入していた。以上より、PTH間歇投与は、骨特異的血管のみならず血管周囲細胞、破骨細胞の細胞間連関に影響を及ぼすものと推測された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、PTH/PTHrPによる骨特異的血管増加作用ならびに骨特異的血管と骨芽細胞系細胞における骨血管連関について明らかにすることを目的として実験計画を立案・遂行した。その結果、PTH間歇投与が、骨特異的血管の数や管腔径を増加させるとともに、血管周囲に局在するαSMA陽性細胞の増殖を促進すること、また、αSMA陽性細胞が血管平滑筋細胞や骨芽細胞系細胞へと分化する可能性を明らかとし、各種学会報告ならびに国際雑誌への論文発表を行うに至った。さらに、これらの研究を遂行してゆく中で、PTHによる皮質骨多孔化に骨特異的血管が関与している可能性を見出した。PTHは、著明な海綿骨増加作用を有し骨粗鬆症治療薬として有益である一方、高用量・長期間投与では皮質骨の多孔化が生じるというデメリットを有していた。皮質骨多孔化は、実臨床において大きな問題であるものの、その発症機序は明らかとされていなかった。本研究成果は、皮質骨多孔化の発症メカニズム解明に寄与する重要な知見になると考えられ、今後さらなる解析を進めてゆく必要があると考えられる。
2020年度までの解析結果から、PTHの間歇投与は、骨特異的血管と血管周囲細胞群を増加させるとともに、これら血管周囲細胞が血管平滑筋細胞や骨芽細胞系細胞へと分化する可能性を明らかとした。一方で、PTH間歇投与マウスでは、皮質骨内膜側における骨特異的血管の局在が変化し、破骨細胞を伴って皮質骨内へと侵入する可能性を見出している。従って、本研究の申請時に考えていた3年目の実験計画「ビスホスホネート製剤投与後の骨特異的血管に対するPTH/PTHrP作用の解明」に加えて、PTH投与による骨特異的血管と破骨細胞の細胞間連関、および、皮質骨内への血管/破骨細胞侵入メカニズムについて追加実験・解析を行いたい。具体的には、皮質骨表面へ血管を誘導する機序として、PTHが皮質骨表面の骨芽細胞系細胞や骨細胞へ作用し、血管新生・誘導に関与する因子(VEGFなど)を発現させることで血管が近接する可能性を推測しており、これら因子の発現を各種免疫組織化学やreal time PCR法で解明したい。また、同部位の血管と破骨細胞、骨芽細胞系細胞の細胞間ネットワークの三次元微細構造を、透過型電子顕微鏡やFIB-SEMを用いて解析する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
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