研究実績の概要 |
歯冠の形成過程において、歯胚上皮にエナメル結節 (enamel knot, EK) と呼ばれるシグナリングセンターが形成され、EKから分泌される様々なシグナル分子の働きにより、歯胚の細胞の挙動 (cell behavior) が決定され、上皮と間葉の境界形状(将来のエナメル象牙境)が決定されると考えられる。そこで、本研究では、歯冠の形状が異なる2種の実験動物、マウス (Mus musculus) とトガリネズミ (Suncus murinus) の歯冠の形態形成を比較した。マウスの臼歯は背の低い円錐形の咬頭をもつ鈍頭歯型を示すが、トガリネズミでは咬頭が鋭く尖った切縁歯型を示し、咬頭頂から伸びる稜が発達している。EKから分泌されるShh, Fgf4などのシグナル分子が、どのように咬頭や稜の形態の違いを生みだすのかを調べた。 帽状期歯胚では、2種の歯胚の形状に大きな違いはなく、primary EKが1つ形成され、ShhやFgf4の発現パターンにも違いはなかった。しかし、鐘状期になると、マウスと比べて、トガリネズミでは、Fgf4が極めて小さな発現ドメインを持つようになり、それを中心に内エナメル上皮が背の高い円錐形に配列した。ShhはFgf4の発現ドメイン (secondary EKs) を中心に円錐形に発現した。Fgf4の発現部位の直下に鋭い咬頭頂が形成されるが、その発現が次第に移動を開始し、その軌跡にそって稜が形成された。トガリネズミの歯胚の器官培養を利用して、Shhの機能を阻害すると、歯胚上皮のミオシンIIが不活性化し、細胞張力が減少し、その結果、咬頭が低く、稜が発達しない歯が形成された。以上のことから、FGFは、細胞増殖を制御して、咬頭頂や稜の位置を決定し、Shhは歯胚上皮のアクトミオシン骨格を調整して、咬頭の高さを決定することが示された。
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