研究課題/領域番号 |
19K10048
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
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研究分担者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
弘中 祥司 昭和大学, 歯学部, 教授 (20333619)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生後発達 / 摂食行動 / 三叉神経運動ニューロン / 抑制性シナプス伝達 / 顎運動 |
研究実績の概要 |
哺乳類の摂食行動は生後、母乳を摂取する吸啜から固形物を噛み砕いて栄養を得る咀嚼へと大きく変化する。その後、萌出した歯から食物の硬さや性状の感覚情報を受けとり、硬さに応じて噛む力を調節するようになる。この噛む力の微細なコントロールは、抑制性シナプス入力によって三叉神経運動ニューロンの活動を細かく制御することで行われると考えられている。したがって、抑制性シナプス入力が咀嚼の獲得に向けて発達・成熟する可能性が極めて高いが、この抑制性シナプスが生後どのように形成され、咀嚼機能の獲得にどのように関わるのか未だ不明な点が多い。本研究では、電気生理学的手法を主に用いて、咀嚼の獲得期における抑制性シナプスの形成・成熟パターン、抑制性シナプス形成の時期特異的抑制が咀嚼に与える影響、抑制性シナプス形成に対する口腔感覚の役割を解析することを目的とし、咀嚼機能の獲得に対する抑制性シナプス形成の役割の解明を目指す。 令和元年度には、生後2~5、9~12、14~17日齢の閉口筋運動ニューロンの抑制性微小シナプス後電流(mIPSC)をパッチクランプ法を用いて記録した。全ての日齢グループの動物において、咬筋運動ニューロンからGABAA受容体およびグリシン受容体を介したmIPSCが保持電位-60 mVの状態で観察された。グリシン受容体を介した電流成分は日齢が進むに従い、電流振幅と発生頻度が増加した。一方GABAA受容体を介した電流成分は生後2~5日齢グループで豊富に観察されたのに対し、日齢が進むに従い、頻度と電流振幅が減少した。 以上の結果から、全ての日齢の咬筋運動ニューロンはGABAA受容体をグリシン受容体を介する抑制シナプス伝達が誘発されること、咬筋運動ニューロンへの抑制シナプス伝達は生後発達とともに変化することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、顎の筋を支配する三叉神経運動ニューロンへの抑制性シナプス伝達機構が、生後どのように発達・成熟していくのか、また開口筋および閉口筋を支配する運動ニューロンで発達パターンに違いがあるのかどうかを電気生理学的手法を用いて解析することを目的とした。実験動物には生後2~5、9~12、14~17日齢のWistar系ラットを使用した。試料採取の2~3日前に閉口筋運動ニューロンを標識するために5%dextran tetramethylrhodamineを咬筋に投与した。実験日に動物を深麻酔後、脳幹を摘出し、三叉神経運動核を含む前頭断脳スライス標本を作製した。蛍光顕微鏡下で咬筋運動ニューロンを同定し、同ニューロンにパッチクランプ法を適用し抑制性微小シナプス後電流(mIPSC)を記録した。中枢神経系の抑制性シナプス伝達を担う神経伝達物質として、GABAとグリシンが知られているため、両神経伝達物質に対する受容体の拮抗薬を用いて、GABA性、グリシン性mIPSCを記録した。 全ての日齢グループの動物において、咬筋運動ニューロンからGABAA受容体およびグリシン受容体を介したmIPSCが保持電位-60 mVの状態で観察された。このことから、全ての日齢の咬筋運動ニューロンはGABAA受容体をグリシン受容体を有することが示唆された。グリシン受容体を介した電流成分は日齢が進むに従い、電流振幅と発生頻度が増加した。一方GABAA受容体を介した電流成分は生後2~5日齢グループで豊富に観察されたのに対し、日齢が進むに従い、頻度と電流振幅が減少した。 以上の結果から、咬筋運動ニューロンへの抑制シナプス伝達は生後発達とともに変化することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
顎運動は閉口筋と開口筋が交互に収縮することで遂行される。三叉神経運動核には閉口筋を支配する運土ニューロンと開口筋を支配する運動ニューロンが存在し、これらの運動ニューロン間で電気生理学的・形態学的特性に差があることが報告されてきた。したがって、各運動ニューロンに対する抑制性シナプス伝達機序の発達様式に差異がある可能性がある。そこで、今後の研究で、mIPSCの生後発達パターンを閉口筋および開口筋運動ニューロン間で比較解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、あらかじめ本研究室で所有している試薬・機器類を使用することで遂行することができた。 次年度は本年度に引き続き、ラット脳スライス標本作成に使用する実験動物の購入費、飼育費、さらに標本作成に必要な試薬(細胞内液、細胞外液の構成試薬、受容体拮抗薬、脳スライス作成に用いる試薬等)、ガラス器具切削器具等の購入費として使用する。さらに、令和2年度に予定しているGABAAまたはグリシン受容体欠損動物の作製にかかる費用も必要と考える。研究成果を発表するための費用として国内外の旅費、研究成果を出版するための費用として外国語論文のための校閲費、論文投稿費用、別刷り購入費用が必要である。
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