研究課題
我々は、これまでに破骨細胞の骨吸収機能に必要なキナーゼとしてプロテインキナーゼN3 (Pkn3)を同定した。このキナーゼに対する阻害活性を持つ低分子化合物が複数報告されている。本年度は、①in vitroにおいて、これらの化合物の破骨細胞分化、生存及び機能に対する影響の検討、②in vivoにおいて、閉経後骨粗鬆症のモデルである卵巣摘出術(OVX)を施したマウスの骨量減少に対する効果を検討した。①Pkn3阻害活性を有する化合物のうち、H8及びSB202190について、in vitroで、破骨細胞の分化、生存、アクチンリング形成及び骨吸収活性について検討した。H8、SB202190とも破骨細胞の分化及び生存に影響しない濃度でアクチンリング形成及び骨吸収活性を抑制した。SB202190と類似した化学構造を持つがPkn3阻害活性を有さないSB203580では、骨吸収活性抑制作用は認められなかった。②マウスにOVXを施した後、溶媒又はSB202190又はSB203580を4週間腹腔投与し、大腿骨の海綿骨量をマイクロCTにより測定した。OVXにより、海綿骨量は減少した。SB203580投与群では、溶媒投与群と同程度に海綿骨量が減少したが、SB202190投与群では、海綿骨量の低下が緩和した。血清骨形成マーカーであるALP活性はSB202190投与群とSB203580投与群で有意差を認めなかった。一方、血清骨吸収マーカーであるCTX-Iは、SB202190投与群でのみ低下していた。これらの結果から、SB202190は、骨吸収を抑制することでOVXにより引き起こされる骨量減少を抑制すると考えられる。今後、骨形態計測により、更なる解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
In vivoの実験においては、当初想定していたよりも進んでいる。しかし、In vitroの実験系においてPkn3と結合する新規分子を明らかにする実験については、当初の計画よりも遅れ気味である。そのため、総合的には、おおむね順調であると考えている。
研究実績の概要でも触れたように、OVXマウスに対するSB202190の効果について、骨形態計測によりさらに検討を加える。特に、破骨細胞の数と機能に対する影響及び骨形成速度に対する影響について調べる。Pkn3と結合する新規分子の探索について、Venusタグを付きPkn3を発現するアデノウイルスの破骨細胞での発現効率をもう少し上げる必要があり、現在、組換えウイルスの改良に取り組んでいる。これにより、研究計画に記載した実験を進めていく。
In vivoでの阻害剤の効果を検討する際、投与量の決定が予定より順調に進行したため、次年度使用額が生じた。現在改良を加えているVenus-Pkn3アデノウイルスコンストラクト作成のための費用として用いる予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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