研究課題
唾液腺の分枝形態形成と細胞分化は機能発現に極めて重要であるが、その分子制御機構について未だ不明な点が多い。p130Cas (Crk-associated substrate protein)は成長因子やインテグリンシグナルによって細胞内で様々なタンパク質と複合体を形成するアダプタータンパク質である。我々はこれまでにp130Casがアクチンの再構成に深く関わっているだけでなく、細胞の極性化に必須であることを報告した。本研究では, p130Cas floxマウスとK14-Creマウスを交配し上皮組織特異的p130Cas欠損(p130Cas cKO)マウスを作製し、唾液腺の機能発現におけるp130Casの生理的役割について検討を行った。ウエスタンブロッティングによりマウスの唾液腺でのp130Casの発現を確認した。野生型マウスとp130Cas cKOマウスの体重に差はなかったが、野生型マウスと比べて、p130Cas cKOマウスでは顎下腺と舌下腺の大きさと重量が小さかった。野生型およびp130Cas cKOマウスの顎下腺及び舌下腺の組織学的解析を行ったところ、p130Cas cKOマウスでは顎下腺の顆粒性導管部の数の減少が見られたが、舌下腺に関しては差が認められなかった。さらに、マウスの顎下腺を用いて免疫蛍光染色を行ったところ、p130Cas cKOマウスでは腺房細胞のマーカーであるAquaporin-5の管腔側細胞膜への局在の異常が観察された。また、p130Cas cKOマウスでは唾液分泌量についても減少が見られた。以上の結果よりp130Casが唾液腺の機能発現に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた実験計画通り、p130Cas cKOマウスを用いて、組織学的解析及び唾液分泌量の比較を行った。p130Casの発現細胞の同定に関して、免疫組織染色に使える抗p130Casの抗体の選別に時間がかかったが、その後順調に進んでいる。
胎生13.5日の野生型およびp130Cas cKOマウスの唾液腺原基を摘出し、器官培養を行う。経時的な形態変化と腺房細胞、導管細胞の分化マーカーの発現を比較する。胎生18日、生後0日、1週、2週および4週齢の野生型およびp130Cas cKOマウスの顎下腺および舌下腺の組織切片を作製し、p130Casの発現時期と発現細胞を同定する。
今年度は、毎年参加している基礎系の学会が自身の所属大学の所在地で開催されたため、出張旅費の支出が抑えられることができた。その分を用いて次年度は唾液成分の分析や野生型とp130CascKOマウス唾液腺で明らかな差が見られた時点のRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行い、p130Cas下流分子を網羅的に探索する。
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