研究実績の概要 |
咀嚼運動はヒトが効率良くエネルギー摂取をするためにも、脳の活性化を促し健康寿命を延ばすためにも重要な運動である。本研究は、Phox2B陽性ニューロンに光遺伝学の技術を用いてアプローチすることで、咀嚼運動の神経回路がどのようなニューロン群から構成されているのかという問いに答えることを目的とする。2020年度には、延髄孤束核のPhox2B陽性ニューロンを活性化する事により誘発されるリズミカルな顎運動に関与する神経核について調べた。実験にはPhox2Bを発現している神経細胞でDNA組換え酵素Creを発現するトランスジェニックラット(Phox2B-creラット)を用いた。孤束核の咀嚼運動誘発部位にアデノ随伴ウィルスpAAV-Ef1a-DIO-hChR2(H134R)-EYFPを注入することで、孤束核咀嚼誘発部位のPhox2B陽性ニューロン特異的に光活性化タンパク質であるチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、投射先である三叉神経上核(SupV)、中間網様核(IRt)、後巨細胞性傍核(DPGi) 、それぞれに光刺激用のカニューレを埋入した。また、咬筋および顎二腹筋に筋電図電極を取り付け、光刺激中の筋電図記録を行った。。IRtとDPGiでは、青色(470 nm, 1-2 mW, 2, 5, 10, 20, 50 Hz, 30 sec)の光刺激により、咬筋と顎二腹筋で交代性のリズミカルな筋活動が誘発された。一方、SupVの光刺激では、20 Hzでの刺激でのみ、わずかにリズミカルな筋活動が見られた。これらの結果から、延髄孤束核のPhox2B陽性ニューロンは、主に、IRtとDPGiを介して、咀嚼様の顎運動の形成に関与していることが示唆された。
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