研究実績の概要 |
咀嚼運動はヒトが効率良くエネルギー摂取をするためにも、脳の活性化を促し健康寿命を延ばすためにも重要な運動である。本研究は、Phox2B陽性ニューロンに光遺伝学の技術を用いてアプローチすることで、咀嚼運動の神経回路がどのようなニューロン群から構成されているのかという問いに答えることを目的とする。 2021年度までの研究において、延髄孤束核にアデノ随伴ウイルスAAV1-Ef1a-DIO-hChR2(H134R)-EYFPを注入することで、Phox2B陽性ニューロン特異的に光活性化タンパク質であるチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、投射先である三叉神経上核(SupV)、中間網様核(IRt)、後巨細胞性傍核(DPGi)に光刺激を行う実験で、延髄孤束核のPhox2B陽性ニューロンは、主に、IRtとDPGiを介して、咀嚼様の顎運動の形成に関与していることが示された。2022年度には、逆行性のアデノ随伴ウイルスをSupV、IRtもしくはDPGiに注入し、孤束核での光刺激を行った。その結果、2020年度の実験と同様に、IRtとDPGiでは、青色(470 nm, 1-2 mW, 2-50 Hz)の光刺激により、咬筋と顎二腹筋で交代性のリズミカルな筋活動が誘発された。一方、SupVの光刺激では、リズミカルな筋活動は見られなかった。さらに、Phox2B陽性ニューロンにチャネルロドプシン(ChRFR)を発現しているトランスジェニックラットを用い、DREADDシステムを用いてIRtもしくはSupVのニューロンの活動を抑制したところ、IRtの抑制では孤束核の刺激によるリズミカルな筋活動が減弱したが、SupVの抑制では変化しなかった。これらの結果から、延髄孤束核のPhox2B陽性ニューロンが、IRtとDPGiを介して、咀嚼様の顎運動の形成に関与していることがさらに裏付けられた。
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