研究課題
大脳皮質には機能局在があり、体性感覚については身体の各領域の位置関係が体性感覚野内に再現されている(体部位局在)。過去のマクロレベルでのイメージングでは、上下顎の臼歯歯根膜刺激に応答する領域の大半は重複し体部位局在が明確でないことが明らかとなっている。このことから、上顎、下顎の分別には個々のニューロン活動が寄与している可能性が考えられるが、その分布や活動様式については不明である。本年は、2光子励起顕微鏡を用いて、マウス臼歯の歯根膜刺激に応答するニューロンを立体に時間軸を加えた4次元(XYZ軸および時間軸)で解析するための、手法および解析するためのソフトウェア開発を進めた。実験にはカルシウム指示タンパク質であるGCaMP6sを大脳皮質の興奮性ニューロンに発現した遺伝子改変マウスを用いた。ウレタン麻酔下で、歯根膜からの感覚情報を主に処理するとされる背側島皮質と二次体性感覚野の境界を中心に開窓を行い、歯根膜電気刺激に対する同部位の2/3層に存在するニューロンの活動を2光子励起顕微鏡によるカルシウムイメージングで捉えた。応答するニューロン数は表層から深くなるにつれて増えていく傾向が認められた。応答するニューロンは刺激に対して高頻度で応答するものと低頻度で応答するものが混在していた。低頻度で応答するニューロンは経時的変化を確認することにより、刺激に対する応答なのか、自然発火によるものなのかを区別できる可能性が示唆された。興奮したニューロンの3次元的配列を再構築したところ、応答を示すニューロンは一般的な体性感覚と同様と思われるカラム状構造を有していることが示唆された。また、高頻度に応答するニューロンは観察した2/3層のうち深い部分に多く認められる傾向があり、これらのニューロンが歯根膜感覚を受容する中心となっていることが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定した遺伝子改変動物のGCaMP6sマウスの繁殖は問題無く行えた。2光子励起顕微鏡は極めて最先端の技術で作られているため、頑強性に乏しい面が否定できない。今年度は、しばしば軽微な稼働トラブルが合ったものの、おおむね、予定した実験を行えた。ソフトウェアの開発に関しては、応答のあるニューロン抽出およびデータ抽出部分に関しては予定通りの開発進行ができている状況であるが、4次元的なデータとなるため、データ容量が肥大化という問題が出ている。そのため、処理に予想よりも時間を要し、個々のニューロンが経時的に示す詳細な活動に関しての処理をどのように確立していくかは、次年度以降の課題となる。この課題の解決を進めながら、上顎、下顎の分別をどのように行っているかについて予定通りに検討を行う予定である。
本年度は、実験条件の確立および解析に用いるソフトウェア開発を進めた。記録装置のセットアップの一部に、まだ改善の必要が残っているものの、マウスの歯根膜からの情報を受け取る大脳皮質の部位や刺激条件などの実験条件に関してはおおよそ確立できたと考えられる。そこで、上顎、下顎を分けた記録を今後行っていく予定である。解析面ではデータの肥大化によりやや遅れが出ている。これに対しては、描画をスムーズにするために、現行の解析用パソコンに部品を追加すること、長時間の計算を要するデータ変換のために自動解析用のパソコンを別途用意し、自動解析と手動解析を分けることで、時間効率を上げて対応する予定である。その上で、上顎、下顎の刺激に対して応答するニューロンがどのような3次元的分布をしているのか、経時変化を加えて4次元的に明らかにしていきたい。
動物の繁殖に際し、補助員を雇用する予定であったが、とりやめたため残金が生じた。次年度への繰越金は、解析環境の整備を引き続き行う必要が生じているため、令和2年度の助成金と合わせてこれに充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/pharmacology/