研究課題/領域番号 |
19K10071
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
根本 優子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 客員研究員 (10164667)
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研究分担者 |
根本 孝幸 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 客員研究員 (90164665)
下山 佑 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (90453331)
小早川 健 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 技術職員 (10153587)
佐々木 実 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (40187133)
木村 重信 関西女子短期大学, その他部局等, 教授 (10177917)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DPP / DPP7 / DPP4 / ジペプチド / インクレチン / 生理活性ペプチド / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
歯周病は全身疾患のリスクファクターであることが示唆されているが,その分子機構は明らかでない。我々は起炎菌が産生するジペプチジルペプチダーゼ(DPP)に着目し,歯周病菌DPPによる生理活性物質の不活化について新たな知見を得ることを目的として本研究を実施した。 歯周病の主たる起炎菌であるP. gingivalisは糖非発酵性でアミノ酸代謝によって全てのエネルギーを産生する。栄養ペプチドの分解に関与する新規のエキソペプチダーゼ(DPP5, DPP11およびAOP)を発見し,DPP4, DPP7およびPtpAを加えたジペプチド産生系の全容をこれまでに明らかにした。また,アミノ酸は主としてジペプチドとしてアミノ酸トランスポーターPotにより取り込まれることを報告し,さらに,歯周病菌DPP4は消化管ホルモン[インクレチン(GLP-1,GIP)]を分解不活化し,食後高血糖時間を延長することを見出している。 令和3年度にはDPP7はDPP4よりも高効率にインクレチンを分解すること,血中インスリン濃度の低下を誘導し,高血糖時間を延長する作用があることを報告した。さらに,DPP7はインクレチンを含む複数種類の生理活性ペプチドを加水分解することを見いだし,その切断箇所を明らかにした。また,合成蛍光基質ペプチドを用いた2段階加水分解反応系を新規に構築し検討した結果, DPP7活性はP1’-P2’アミノ酸の存在によって,酵素反応の代謝回転数(kcat)が上昇し,既知のP1位疎水性アミノ酸に加えて,さらに8種類のアミノ酸を基質とする広範な基質特異性を有することを明らかにした。これらの結果より,歯周病菌DPPはインクレチンを含む生理活性ペプチド分解を介して全身的な健康状態に関与することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
P. gingivalis野生株とともに,これまでに構築した単一DPP遺伝子欠損株,複数DPP遺伝子欠損株の構築により,菌体や菌体外成分による生理活性ペプチド分解の検索が可能になっている。さらに,P. gingivalisを含む歯周病関連菌由来の野生型および変異型DPP組換え体をC末端ヒスチジンタグ付きタンパク質として発現精製する実験系を作っており,in vitroおよびin vivoでのDPPによる生理活性ペプチドやタンパク質分解に関する広範かつ詳細な酵素学的検討が可能な状況となっている。また,P. gingivalis DPP3, DPP4, DPP5, DPP7, DPP11, AOP, および3種類のアミノ酸トランスポーター(SstT, Opt, Pot)に対するポリクローナル,および抗ペプチド抗体を作成した。これらの抗体やDPP組換え体を用いて,P. gingivalis特有のジペプチド産生系,取り込み系に関する検討が可能となり,細菌DPP7がインクレチン,インスリンを含む種々の生理活性ペプチドを分解することが明らかになった。また,作成した抗体やDPP組換え体を用いて,P. gingivalis特有のジペプチド産生系,取り込み系に関する検討が可能となっている。 本研究課題の当初目的は達せられたが, 新型コロナウイルスパンデミックのため研究発表の機会が制限されたことから,一部の助成金を翌年度に繰り越し,追加の検討と得られた成果の発表を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
歯周病菌由来の各種類のDPP,PtpAをIPTG誘導によって大腸菌XL1-Blue株で発現し,菌体を溶菌後,ヒスチジン特異的Talonアフィニティークロマトグラフィーで精製する。関連するエキソペプチダーゼも同様に精製する。ジペプチドや生理活性ペプチドのN-末端配列類似のテトラペプチドをMCA標識した基質を合成し,精製DPPの基質特異性を明らかにする。合成ペプチド分解活性の測定によって,各ペプチダーゼのP1,P2アミノ酸の嗜好性に加えて,P1’およびP2’アミノ酸の酵素活性に対する影響を評価し,宿主生理活性に対する歯周病菌ペプチダーゼの関与について検討する予定である。細菌細胞内酵素分布については免疫電顕で検討を行い,もし,抗体の反応性が不十分である場合には,より反応性の高い抗ペプチド抗体を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスパンデミックにより,国内および国際学会参加に掛かる旅費の支出がなかったため次年度使用額が生じた。次年度には追加実験のための消耗品費と進捗した研究成果の学会発表に係わる旅費,あるいは論文発表経費として使用予定である。
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備考 |
長崎大学歯学部の根本孝幸名誉教授,根本優子客員研究員らと岩手医科大学の佐々木実教授,下山佑講師らのグループは,歯周病菌のペプチダーゼDPP7が広範な基質特異性を有し,血糖調節に関与するインクレチンなどの生理活性ペプチド分解能を有することを初めて示しました(1)。 本研究成果は,糖尿病を含め,歯周病と全身疾患の関連性についての分子機構を解明する重要な手がかりとなると期待されます。
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