研究課題
がん組織の細胞外pHが酸性を示すことは古くから知られている。これは、Warburg効果として知られている好気的糖代謝のみならず、二酸化炭素の放出なども相まって酸性環境は形成されている。このことは、原発巣においてがん細胞は長期に渡り酸性細胞外pHに曝露されていることを示唆している。本研究では長期に酸性細胞外pHに曝露されることが、がん組織内で形成される不均一性に寄与しているかという可能性について検討した。口腔がん細胞としてCA9-22と卵巣癌細胞SKVCR、低転移性ルイス肺癌細胞を用い、段階的に酸性pH馴化させ、pH6.2まで増殖可能な細胞(CA9-22-A、SKVCR-A、LLCm1A)を樹立し検討した。SKVCR細胞とSKVCR-A細胞の性質について検討をしたところ、SKVCR細胞は、一過性の酸性pH刺激によりアディポネクチン遺伝子発現が促進された。またPPARγ遺伝子発現レベルには変化が見られなかったものの、標的遺伝子であるOLR1遺伝子発現が有意に誘導された。一方、SKVCR-A細胞は中性pH環境下においても高いC/EBPβ発現とOil Red O陽性率が高いことが示された。これらのことにより、原発巣内で酸性pHに長期に曝露されることで、脂肪細胞様性質を獲得することを示している。一方、低転移性ルイス肺がん細胞株より酸性pH耐性株を樹立したところ、転移性が上昇していることが明かにされ、この事象は、転移性の異なる不均一な集団から酸性pHで培養することにより高転移性細胞が選択されたというよりは、むしろ低転移性細胞が高転移性細胞へ変化したことを示唆しており、腫瘍内のがん細胞の不均一性に細胞外pH重要であることを示唆している。
3: やや遅れている
酸性細胞外pH耐性株の樹立に時間を要したので、RNAシークエンスによる網羅的解析の結果が、年度内に得られなかった。
複数の酸性細胞外pH耐性株の樹立を行い、RNAシークエンスによる網羅的解析を実施し、新たな標的遺伝子の検索を、特に脂質代謝関連に絞り検討していく。
RNAシークエンスを外注する予定だったが、研究の遅れにより支払われなかったため
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