研究実績の概要 |
口腔癌細胞を含めた悪性腫瘍に対する治療法として免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法が注目されている。しかしその有効性に関しては治療効果の認められない症例もあり、その原因の一つとして癌細胞の宿主免疫系からの回避が挙げられる。この免疫療法の効果を阻む原因の一つは、癌細胞の持つ抗腫瘍免疫機構に対する不応答や抑制である。この癌細胞の免疫系からの回避機構としては、MHCクラスIの発現低下、インターフェロン(IFN)誘導性ケモカインCXCL9, CXCL10の発現抑制、PD-L1などのT細胞の活性化を抑制する分子の発現などが知られているが、その耐性機構は未だ不明な点が多い。我々はこの癌細胞の免疫系から回避機構として口腔癌細胞のIFN耐性に着目した。本研究ではIFN耐性を示す口腔癌細胞を用いて、細胞増殖、細胞死に関わるIFN応答遺伝子のメチル化による遺伝子抑制の分子機構の解明を目指した。まずDNAメチル基転移酵素阻害剤、およびヒストンメチル基転移酵素阻害剤の前処理による細胞増殖に及ぼす影響について検討し、これらの阻害剤の処理により供試した細胞株の増殖が抑制された。しかしながらIFN耐性口腔癌細胞において、これら阻害剤とIFNとの併用処理によりIFN耐性は解除されなかった。またメチル化されたDNA領域には, メチル化CpG結合タンパク質であるMeCP2が結合し, ヒストン脱アセチル化酵素(HDACs)と複合体を形成し, ヒストンを脱アセチル化して転写抑制状態をさらに強化していることが知られている。そこでDNAメチル化阻害剤 とHDAC阻害剤との併用処理によりIFNに対する耐性が解除されるかについて検討を行った。しかしメチル化阻害剤 とHDAC阻害剤との併用処理により顕著な細胞増殖抑制が認められたが、IFNとの併用処理によるさらなる増殖抑制効果は認められなかった。以上の結果から口腔癌細胞の細胞増殖におけるIFN耐性は、エピゲノム異常以外の機序によることが示唆された。
|